夢追う先生、氷上で輝け デフリンピックカーリング山口翔大さん(福島県須賀川支援学校高等部教諭)

大会に向け、ショットの練習に取り組む山口さん(中央)=24日、青森市(本人提供)

 須賀川支援学校高等部教諭の山口翔大(しょうだい)さん(25)=福島県聴覚障害者協会=は、3月2日にトルコで開幕する聴覚障害者スポーツの祭典・デフリンピック冬季大会のカーリング競技に初出場する。補聴器がなければ、ほぼ全ての音を聞き取れないハンディを負いながら仕事の合間に県外で練習に励み、代表の座を射止めた。大舞台で活躍し、教え子や同じ障害がある子どもたちに夢や希望を持つ大切さを伝える。「聴覚障害者スポーツの魅力を広めたい」と意気込んでいる。

 山口さんは東京都府中市出身、東京都立大大学院修了。先天性の難聴により、手話や筆談でコミュニケーションを取っている。母親が福島県田村市出身という縁で県内を度々訪れ、豊かな自然や人の温かさにほれ込み、郡山市に転居した。昨年4月から須賀川市の須賀川支援学校で情報や数学を教えている。

 「氷上のチェス」と呼ばれるカーリングに中学生の時から興味を持っていた。ただ、石の軌道や氷の状態の変化に対応するには、仲間と素早く声をかけ合う意思疎通が必要だと思った。「自分がプレーするのは難しい」と一歩を踏み出せなかった。

 転機が訪れたのは2022(令和4)年4月。カーリングの選手だった大学の後輩に意思の伝達にサインや手話を用いるデフカーリングを紹介してもらった。「努力次第で健常者とも対等に渡り合える」。早速、競技を始めると熱中した。昨年開かれた代表選考会で、石を正確な位置に置くショット(ドロー)の技術をアピールし代表5人のうちの1人に選出された。チーム最年少だった。

 苦労は多かった。県内にはカーリング専用リンクがない。月2回、車で3時間以上かかる長野県軽井沢町や青森市に通っている。自宅などでは、体の柔軟性の向上や筋力トレーニングに取り組む。仕事と競技の両立は大変だが、生徒からの励ましが心の支えだ。休み時間にカーリングについて説明して盛り上がるひとときは、努力を続けられる糧となっている。代表決定を報告すると、「頑張って」とエールを受けた。佐藤清悦校長は「スポーツに懸命に取り組む姿は生徒に良い刺激を与えてくれるはず」と期待する。

 4人で構成するチームで山口さんは最初の2投を投げ、試合の流れを決めるポジション「リード」を務める。今月に青森市で行われた合宿で最後の調整を終え、27日にトルコへ出発する。3月6日から9カ国が参加する予選に臨む。「初めての国際大会だが、最年少らしくチームを盛り上げていきたい。県民に明るい話題を届けたい」と闘志を燃やしている。

■冬季大会、県勢出場は3人目 2025年夏季はJヴィレッジでサッカー

 デフリンピックは国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が運営し、4年に1度、夏季と冬季に開かれている。

 冬季トルコ大会は6競技を行い、日本からはアルペンスキーやスノーボードなどに39人が出場する。福島県勢の冬季大会出場は山口さんで3人目となる。

 デフカーリングと健常者のカーリングのルールはほぼ同じ。男子は3回目の出場で、最高成績は2015(平成27)年ロシア大会の5位。

 日本初開催となる2025(令和7)年夏季東京大会は、Jヴィレッジ(楢葉・広野町)でサッカー競技を実施する。県は新年度以降、デフアスリートを招いたイベントなどを企画し、大会の機運醸成を図る。

 パラリンピックは身体、視覚、知的などの障害者を対象としており、聴覚障害者の競技種目はない。

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