『ブギウギ』一家に1人は居てほしい木野花の安心感 愛子は大野にとって大切な“孫”に

りつ子(菊地凛子)に紹介された大野(木野花)を家政婦として雇ったスズ子(趣里)。安心して愛子(小野美音)を任せられるようになったことで仕事にも精が出る。

『ブギウギ』(NHK総合)第102話では、そんなスズ子にレコード会社から新曲の打診が。「ジャングル・ブギー」「ヘイヘイブギー」とブギの名曲を次々と世に送り出してきたが、いずれも「東京ブギウギ」を超えるヒットには至っていない。「ガラリとイメージを変えてみてはどうか」と佐原(夙川アトム)からアドバイスされるも、一向にアイデアが浮かばないスズ子は、気晴らしにある場所へ出かける。

大野が家政婦としてスズ子の家にやってきてから半年が経った。朝からテキパキと家事をこなしながら、スズ子に支度を促す大野。家を出る時間まで把握してくれているなんて、その有能な仕事ぶりには感動すら覚える。一家に1人は居てほしい安心感を木野花が体現している。

また大野は子供の扱いも抜群に上手い。前回、大野は愛子と一緒に障子を張り替えることで物を大切にする心を育てた。今回も大野は愛子にお手伝いを頼む。愛子が嫌いなニンジンをすりつぶし、ごはんと砂糖と一緒にこねて焼くと出来上がったのは、ニンジンの“がっぱら餅”。大野の故郷であり、演じる木野花が生まれ育った青森県の中でも津軽地方に伝わるおやつだ。

自分で作ったこと、大野の「ニンジンを食べると美人になる」という言葉が効いたのか、愛子はニンジン入りのがっぱら餅を「おいちい!」と言いながらパクパク食べる。「これは特別なおやつだからマミーには内緒」と約束する愛子と大野は本当の孫とおばあちゃんのようで微笑ましい。

一方、スズ子もまた特別なおやつを食べていた。りつ子にお茶に誘われ、楽屋を訪ねたスズ子。マネージャーから茶菓子として出されたのはドーナツ。時は1950年、GHQによる小麦粉や砂糖の統制が撤廃されたのはその2年後だから、当時はきっと貴重なおやつだったのではないだろうか。少しずつ日本が復興に向かっているのを実感する。

しかし、終戦からまだわずか5年であり、人々の傷は癒え切ってはいない。りつ子から大野の家族の話を聞かされるスズ子。「ずっと一人で頑張ってきたはんでね」と大野がスズ子にかけた言葉に妙に実感がこもっていると思っていたら、彼女もまた大事な人を亡くしていた。かつてはりつ子の実家の呉服屋で女中をしていた大野。当時、周りが甘やかしてくれるのをいいことにわがままし放題だったりつ子は、彼女から「そんなことをしていたら、誰からも相手にされなくなる」と言われたそう。

大野は子供を子供扱いしない。甘やかしたり、闇雲に叱ったりするのではなく、人として大事なことを教える。だから、りつ子も「あんな人はいない」と大野には一目置いていた。だが、東京で再会を果たした頃には、大野は戦争で家族全員を失い、別人のようになっていたという。孫に関しては一緒に空襲から逃げ惑う中ではぐれ、そのまま二度と会えなくなってしまった。大野が愛子に向ける眼差しには孫を懐かしむ気持ちと、その孫を自分のせいで死なせてしまったという罪悪感が混じる。りつ子がスズ子に大野を紹介したのは、「昔みたいに元気になってほしい」という思いもあった。

おミネ(田中麗奈)が率いる街娼たちの中にもいたし、タイ子(藤間爽子)もそうだったが、当時、「戦争や病気で大切な人を失った」という経験は珍しくなかったのだろう。だからといって悲しみが薄れるわけではないが、同じ経験をした者同士、その悲しみを分かち合うことはできる。

りつ子の話を受け、スズ子は帰宅してから愛子と大野と一緒に夕飯の買い出しに行く。近所の人に勘違いされるほど、手を繋いで買い物に行く3人の姿は本当の家族にしか見えない。いや、もうすでに大野はスズ子たちにとって大事な家族なのだ。そして同時に、家庭の温かみを教えてくれる大野の存在は次の“ブギ”のヒントを与えてくれるのではないだろうか。
(文=苫とり子)

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