「経済的に苦しいのにまた産むなんて」…行政窓口での言葉に心が折れた。後絶たぬ新生児の殺人・遺棄事件「なぜ孤立出産に追い込まれるのか」…赤ちゃんポスト・蓮田健院長に聞いた

孤立出産に追い込まれる女性の現状を説明する蓮田健院長=熊本市西区の慈恵病院

 鹿児島をはじめ全国で新生児の殺人・遺棄事件が後を絶たない。子どもを匿名で託す赤ちゃんポストや内密出産に取り組む慈恵病院(熊本市)の蓮田健院長(57)は、こうした事件の裁判に証人出廷し、当事者を無償で支援する。孤立出産に追い込まれる女性の現状を聞いた。

 -病院だけに身元を明かして出産する内密出産に全国で唯一取り組む。

 「前向きに出産を考えられない場合、多くの人は中絶を選び、そうできなくても里親や特別養子縁組に子どもを託して解決を図る。しかし、妊娠・出産を周囲にどうしても知られるわけにいかず、隠し通そうとする人もいる。そんな時に『赤ちゃんのために身元を明かして』と説得しても通用しない。知られたくない思いを尊重した支援が必要だ」

 -鹿児島から赤ちゃんポストや内密出産に助けを求めた人もいる。

 「母子手帳をもらいに行けず自宅で孤立出産した鹿児島の女性だった。前回の妊娠の時、『経済的に苦しいのにまた産むなんて』と行政窓口で言われ心が折れたと明かされた。夫と赤ちゃんを車に乗せて来た時、号泣していた。『産む権利を主張すれば良い』と言う人もいるがそれは主張できる人の意見。自分の物差しではなく困っている人の立場に立たないと救えない」

 -裁判に関わるようになった経緯は。

 「赤ちゃんポストが新生児の殺人・遺棄防止に一定の効果があるか検証するため、ポストを利用することなく事件に至った当事者の声を聞こうと傍聴を始めた。裁判官や検察官が説教じみた尋問を続ける様子を見て、孤立出産の現場や背景を知った上で判断すべきだと思った。ネットの検索ワードに『乳児』や『遺棄』を設定。2021年から事件を察知すれば、全国各地の法テラスなどを通じて連絡し意見書を書いたり証人になったりしている」

 -見えてきたものは。

 「当事者の大半が赤ちゃんポストの存在を知らず、知っていても熊本までの交通費を出せない現状があった。遺棄・殺人は許されないが、多くが貧困や愛着障害を抱え不利な立場にあることも念頭に置きたい」

 -必要な支援は。

 「一般的に陣痛の痛みは指の切断に匹敵する。不安でストレスが強まるとさらに増す。それに耐え1人で出産するのは母子ともに危険。予期せぬ妊娠や中絶を『軽はずみ』と中傷するような他人の選択に不寛容な社会では、助けを求められない。自分では解決できない人の存在に思いをはせ、手を差し伸べる人が増えなければならない」

 〈略歴〉はすだ・たけし 1966年生まれ。九州大学医学部卒。慈恵病院の産婦人科部長、副院長を経て2020年11月、理事長兼院長。

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