フィリピンの国営ファンド「マハルリカ・インベストメント・ファンド」エネルギー分野に巨額投資

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一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は世界でもトップクラスの堅調な経済成長を続けるフィリピンにおいて、その成長をさらに加速することが期待されている同国の国営ファンド「マハルリカ・インベストメント・ファンド」や「PPP(官民連携)プロジェクト」の最新動向をレポートします。

フィリピン「国営ファンド」で同国のエネルギー問題を解決へ

フィリピンのソブリンウェルスファンドである「マハルリカ・インベストメント・ファンド」は、安定したエネルギー供給システムが多世代にわたる「成長の鍵」とされていることから、初期投資の大部分を同国の「エネルギー部門」が占めるとしています。

*国家の金融資産を積極運用するファンド

マルコス大統領は、「マハルリカ・インベストメント・ファンド」を「戦略的投資を通じて経済開発を推進するエンジン」と位置付けています。外国からの借入依存を削減する手段としての位置付けもあります。

フィリピンでは高い電力コストとアクセスの不足を解決するために、エネルギー部門への投資が必要とされてきました。昨年の電力の利用可能性とピーク時の電力数値を見ても、フィリピンでは、ほとんど余剰電力がない状況となっています。

「マハルリカ・インベストメント・ファンド」の優先投資分野は、電力の他、農林業、製造業、都市開発、鉱物加工、観光、交通、航空としていますが、電力分野では再生可能エネルギーを中心とする供給源の多様化と価格の安定化、送電網の近代化を目指しています。

先月、大統領府は、フィリピンの電力送電網のほぼ唯一の独占事業者であるフィリピン国家電力送電会社(NGCP)への投資を検討していると述べました。「マハルリカ・インベストメント・ファンド」は、1,250億ペソの初期資本と5,000億ペソの追加承認資本を持っています。

GDPの5~6%規模…インフラへの投資拡大が続く

マルコス政権は、ビルド・ベター・モア・インフラキャンペーン(BBM)を後押しするために117件のPPP(官民連携)プロジェクトを持ち、その価値は2.42兆ペソに上ります。その内訳は、55件が空港、鉄道、港湾ターミナルなどの交通インフラで、21件が都市開発に関連し、14件が道路プロジェクトに割り当てられています。

フィリピン政府機関でPPPプロジェクトを管轄するPPPセンターによれば、交通インフラに多くのプロジェクトを抱えているのは、この分野でのフィリピンの遅れを取り戻そうとしているからとのことです。

議会は2024年、マルコス政権のビルド・ベター・モア・インフラキャンペーン政策に1.5兆ペソを割り当て、その大部分が港湾、空港、大量輸送プロジェクトに充てられます。

マルコス政権は、GDPの5~6%をインフラに投資することを目指し、8.78兆ペソ相当の198件の主要インフラプロジェクトを承認しています。これには、メトロマニラ地下鉄、南北通勤鉄道、サンラモンニューポート、ケソン市のフィリピン大学総合病院、カガヤンバレー医療センターの血液透析センター、EDSAバスウェイプロジェクトなどが含まれます。

また過去数ヵ月間で多くの民間からの非公募提案があり、これらも2024年に承認される可能性があります。このなかには、プエルトプリンセサ国際空港の改修+運営、メトロマニラの長期的な水源開発プロジェクトなどが含まれます。さらにPPPセンターは、来年13件のプロジェクトを承認することを目指しており、そのなかには新セブ国際コンテナ港、サンマテオ鉄道プロジェクト、ラグナレイク道路ネットワークが含まれます。

フィリピンへの「海外直接投資」も拡大が続く

マルコス大統領は昨年12月に、国および地方レベルのすべてのPPPプロジェクトに統一された法的枠組みを作成することを目指す法律に署名しました。この法律はまた、非公募提案の枠組みを強化しています。

フィリピンの統計局によれば、昨年、フィリピンの経済成長がアジアで最も高い国の1つだったことから、フィリピンでの承認された外国投資のコミットメントはほぼ4倍に増加し、8,890.07億ペソ(159億ドル)に達しました。これは1年前の3.7倍で、1996年以来の最高額です。また2023年第四四半期の投資コミットメントは、前年比2.3倍の3,944.5億ペソに上昇しました。

昨年、承認された外国投資のトップはドイツで3,939.9億ペソ。前年同月比で5,400倍に増加しました。ドイツからの投資は総額の44.3%を占めています。

フィリピン統計局は、政府の7つの投資振興機関からの投資額を集計していますが、これは経常収支の計算のために中央銀行(BS)が集計している実際の外国直接投資(FDI)とは異なります。外国人投資の最大部分は、全体の86.3%を占めるBoI(Board of Investment)で7676.3億ペソ。フィリピン経済特区(PEZA)で1,121.3億ペソ、スービック湾経済特区が7.17億ペソ、クラーク開発公社が1.55億ペソ、BoI-ムスリムミンダナオ自治地域が3.59億ペソ、バターンフリーポートエリア庁(AFAB)が7,450万ペソと続きます。

一方、フィリピン国内からの投資コミットは、前年比38.7%減少し、比率は全体の32.6%となりました。これらのプロジェクトが実現すれば、28,529の雇用が生み出されると予想されています。

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