海外勤務から帰国した銀行員男性「何か考えなくては…」44歳で直面したキャリアへの迷いとは

今回ご紹介する金子さんは、大手銀行に新卒で入社して各支店勤務を経験後、27歳の時に海外勤務になり、44歳半ばで帰国された方です。

大手銀行では平均的な企業と比較してキャリアの節目が早く、50歳で退職して子会社や関連会社、または別会社に移る人が多いようです。ですから、金子さんが帰国した44歳と言えば、退職後の道が視野に入ってくる年齢でした。一般企業で言えば55歳の役職定年の直前にあたる時期かもしれません。

現在では幸せなセカンドキャリアを築いている金子さんが、この悩みの多い時期に何を感じ、どう行動されていたかを見ていきましょう。

キャリアの節目で見つけた「あるチラシ」

金子さんは海外から帰国後、「自分が持っている知識、経験がその後もずっと活かせるように、何か考えなくてはいけないな」と思い始めたそうです。そのため、当面は関連会社への道を選択して、働きながら具体的なことを考えることにしました。

そんな中で、かねてより海外支援に関心があったことから、ナイロビのスラム支援をしている獣医師の講演会を見つけたので行ってみることに。その講演会場で偶然、「ワールドランナーズ・ジャパン」という組織が「チャリティーマラソン大会」をしているというチラシを見つけます。

なぜ目に付いたかと言えば、金子さんは昔から走ることが好きで、マラソン大会にも多く出場していたからです。

「自分が好きなマラソンの分野でのチャリティー活動か」

興味が湧いて、チラシを持ち帰ることにしました。

「趣味×興味」の領域でNPO活動を開始

「ワールドランナーズ・ジャパン」は年に3~4回チャリティーマラソン大会を開催していて、ランナーからの参加費や寄付を使い、アフリカの子供たちを支援しているNPO法人です。

金子さんにとっては、好きなマラソンと興味があるチャリティー活動の両方に関われるので、大会にボランティアとして参加することにしました。仕事とは異なるボランティア活動は新鮮で楽しいものでした。

何度か参加するうちに、他のスタッフの方から「リーダー的な役割で活動に参加してみませんか?」との誘いを受けました。そうして海外勤務の経験を強みとして、寄付金の使い方や、現地との支援内容の交渉において役割を担うことになったのです。

こうしたNPO活動はもともと運営予算も限られていることから、スタッフは手弁当で参加しています。さらに収益は寄付になるので完全に無報酬での活動です。

しかし、そこに集まってくる人たちはその分野に興味を持っていて、心から好きな人たちなので、仕事と違って親しくなりやすいのです。金子さんも、ここで本当の意味でのネットワークが生まれたと言います。

金子さんは平日の昼間は本業の銀行の仕事があり、土日や平日の夜をNPO活動にあてていたため、時間的に少しキツいと思うこともありましたが、好きでやっているので面白さを感じて活動を継続できました。

実は、このようなNPO法人のスタッフは、大方は会社員の方が運営に携わっているので、継続して関わり続ける人が少ないもの。金子さんのように興味を持って長く関わる人はNPO法人にとっても有り難い存在だったようで、次第に深く運営に関わるようになりました。

ここで筆者がなるほどと思ったのは、好きな分野で興味を持ち、純粋な気持ちで参加した人たちの触れ合いは自然で、本当に住み心地の良い「サードプレイス」になるということです。

趣味を掘り下げてたどり着いた、一般社団法人での活動

金子さんは現在、NPO法人以外にももう1つ「居場所」と言える団体に所属しています。それは一般社団法人です。

きっかけはマラソンが好きな気持ちを掘り下げたことにありました。金子さんはとにかく走ることが好きで、若い頃はマラソンの記録を塗り替えることを目標にしていましたが、年齢を重ねるとだんだん記録に伸び悩むようになりました。

「それなら記録よりも楽しむことを第一義にしよう!」

そう思い始めて見つけたのが、「トレイルランニング」です。山の中を走り時間を競い合うスポーツで、自然の中を走るので解放感があるのだそうです。

この競技の主催者に「日本山岳スポーツ協会」という一般財団法人があります。ここでも大会に参加するうちにスタッフの方から誘われ、運営側としても活躍するようになりました。チャリティーマラソン大会での経験があったので、運営スキルが身についていたのかもしれません。

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こうしてNPO法人と一般財団法人で活動を始められた金子さん。50歳で銀行を退職する形となり、本業は本業で関連会社での新しい仕事が始まることになりましたが、担当業務はかつての法人を相手にしていた時とは全く異なる内容でした。

●プライベートでの2つ活動に加え、新たな仕事もスタートさせた金子さん。現役時代と全く異なる業務で工夫したこととは? また、理想のセカンドキャリアに向けて備えた内容とは? 後編【理想のセカンドキャリアを見つけた64歳・元銀行員が語る「定年後への備え方」】で詳説します。

髙橋 伸典/セカンドキャリアコンサルタント・モチベーション総合研究所代表・東京定年男女の会主宰

1957年生まれ。57歳で早期退職するも、多くのつまずき、苦労を経験する。しかし試行錯誤を重ねることで乗り越え、リスクなく独立する道をつかみ取る。東京都主催の東京セカンドキャリア塾、各自治体などでセミナーを行う。雑誌やウェブメディアでは、セカンドキャリアに関する寄稿の実績多数。著書に「定年1年目の教科書」(日本能率協会マネジメントセンター)がある。


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