『スナックJUJU』東京ドームに5万人が“来店” 鈴木雅之、NOKKO、小田和正も登場した無二の歌謡ショー

2023年8月にデビュー20周年を迎え、アニバーサリーイヤー真っ只中のシンガー JUJU。少しハスキーな中高音と切なげでクリアな高音を使い分ける歌声とその表現力、さらに抜群のトークで老若男女問わず、人気を博しているのは周知の事実だ。

その彼女が“ママ”に扮し会場を“スナック”に見立て、昭和歌謡を中心にカバー曲を披露するライブが『スナックJUJU』シリーズ。2016年、第1号店が東京・国立代々木競技場 第一体育館にオープンし、大成功を収めた。2023年には『スナックJUJU』が全47都道府県に一気に全国出店。自称「JUJUさんによく似てるって言われます。でもまったくの別人ですから」と笑うママは、全都道府県で53回もスナックを開店し、老若男女の甘酸っぱい思い出をその歌声でひっぱり出した。このツアーの集大成となったのが、2月17日に東京ドームで開催された『ソニー銀行 presents -ジュジュ苑スーパーライブ- スナックJUJU 東京ドーム店 ~ママがJUJU20周年を盛大にお祝い!! 一夜限りの大人の歌謡祭~』である。

5万人が来店した「スナックJUJU 東京ドーム店」。映像に映し出されたスナックの扉が開き、ママの出勤とともにライブは始まった。ストリングスとホーン隊を携えた“流しの皆さん”の生演奏で最初に歌われたのは「二人でお酒を」(梓みちよ)。続いて「メモリーグラス」(堀江淳)。前者の歌詞には〈飲みましょうね〉というフレーズが、後者の歌詞には〈水割りをください〉というフレーズが登場する曲だ。オープニングの2曲で、もはや曲の中で観客と会話しているママ。聴いているこちらも、ママに「いらっしゃい、何にする? いつもの?」と聞かれているようで、東京ドームという広さを感じさせないその接客に、早くもママの真髄を見た気がした。そこに一緒にいること、曲を聴くこと、一緒に歌うことをフラットに楽しむことができる。それが『スナックJUJU』の真髄ではなかろうか。

来店客との会話もスナックでは重要である。その一晩、来店客の中でどんなストーリーが広がるかもママの話術次第だ。「あっという間によその国に連れて行ってくれる曲もあります。一緒にフラッと旅に出たい」という言葉の後「桃色吐息」(髙橋真梨子)と「異邦人」(久保田早紀)へ。「異邦人」は、イントロのリズミカルなストリングスが異国情緒を誘う優雅な1曲だ。そのイントロの特徴を生かしつつ、生バンドのストリングスがキレッキレで、じつにダイナミックに響いて、旅に出る前の行進曲のような趣きが感じられた。ダンサブルな1曲「CHA-CHA-CHA」(石井明美)では、ダンサーたちの衣装が、昭和を代表する国民的アイドル ピンク・レディーのそれに見えてきたりと、昭和歌謡をリアタイで知る筆者にとっては、かなりツボであった。3時間以上のライブの中で、一度も来店者を飽きさせることなく、次から次へと、楽しい驚きと、誰もが知る歌謡曲を届けていくママ。その仕切り、歌声、選曲とセットリスト、演出も含み、一つひとつのファクターがしっかり“スナック”然としていながらも、つっこみどころがないほどに完成された“無二の歌謡ショー”になっていたことにはとても驚いた。

スナックを司るママは、ステージを観ていても、いつ水を飲んでいるかもわからないほど休憩時間ゼロの大活躍。デュエット相手を事前に一般募集したデュエットコーナーでは、ステージに立ち緊張気味だった来店客に、歌う前に背中に手を置きソッと耳打ち。メインステージから電飾のついたトロッコでアリーナ後方のサブステージに移動する間には、にこやかに「どうもいらっしゃーい」と全方向の客席に手を振りながら、事前に募集した悩み相談に真剣に答えるなど、ママの優しさ、そしてお客様を大事にする気持ちが伝わる場面もたくさんあった。

非常に濃密なこの日のライブの中で、最大のハイライトはなんといっても3人のスーパーゲストだろう。最初のスーパーゲストとして登場したのが、ラヴソングの王様・鈴木雅之。「め組のひと」でキュートに決めポーズを決めたママは、その後、鈴木と「ロンリー・チャップリン」をデュエット。さらに中盤では、ママがよく知るJUJUがリスペクトする女性ボーカリスト NOKKO(ex.REBECCA)が登場して、ママと一緒に「Maybe Tomorrow」を披露。その後、NOKKOと「80年代はいい時代だった。元気な時代でしたね」と会話をするママは、「でも、いつの時代も明日はきっといいことがある、そう思います」と結んだ。

真っ暗なメインステージに突然ピンスポがあたり、ピアノの弾き語りで「言葉にできない」を歌い始めたのが、3人目のスーパーゲスト 小田和正。「Yes-No」や「ラブ・ストーリーは突然に」では東京ドーム全体が大合唱に包まれた。ゲストと客席の様子を交互に見ながらデュエットしハモっていたママの姿は、とても純真で眩しかったし、無邪気で熱心な音楽リスナーのようだと思った。本当にいい笑顔をしていたと思う。

この豪華なスーパーゲストが揃ったのは、ひとえにJUJUというアーティストの人徳にほかならない。彼女が20年かけて、真剣に音楽や歌と向き合い、真摯に己の好きなことを追求し続けてきた結果だろう。しかし、冷静に考えてみると、カバー曲メインのライブに本家をゲストで呼ぶということ自体、じつはとんでもないことなのではないかと思う。普通だったら絶対に本家を呼んだりしないだろう。カバーは本家を超えられない、誰もが知るヒット曲ならなおさら……そんなことを大概の人は思うからだ。筆者自身も前述した“大概の人”の部類に入っていたが、この日のライブでそれが簡単に消し飛んだ。たぶん、JUJUの中では、曲に対するリスペクト、そのアーティストがどれだけ好きかが、最も大切なのではなかろうか。好きな曲を愛おしんで歌っている。だからJUJUのボーカルアプローチは、自身のオリジナル曲でも、カバー曲でも、変わらず発音も音の置き方も丁寧だし、大仰なトーンや耳に残るような特別なフックもほとんど出てこない。十分そのスキルがあるのに、だ。彼女はスキルで歌唱することよりも、曲に寄り添い歌うことを選んでいるのだと思う。

それから度胸と優しさ、そして上品さが、いいバランスで同居している。前述したように本家をゲストで呼ぶという度胸ある決断、来店者を第一に考える優しさ、そして立ち振る舞いや口調からにじみ出る上品さ。JUJUの人気の秘密が“一見さん”にもとてもよくわかる素晴らしいライブだった。

アンコールではJUJUの新曲「一線」(テレビ朝日系木曜ドラマ『グレイトギフト』主題歌)も初披露。スリリングなビートとメランコリックなサビのメロディ、〈ベルベットの夜の果て〉という歌詞など、昭和歌謡のテイスト漂う1曲が『スナックJUJU』にぴったりはまる1曲であった。

今回の「スナックJUJU 東京ドーム店」は、まだまだ続くJUJUデビュー20周年の次なる幕開けを告げたライブでもあった。この先、全国アリーナツアー、フルオーケストラコンサート、恒例の『JAZZ LIVE』など、それぞれコンセプトも規模も違ったライブの開催が発表されている。昭和歌謡に限らず、ジャズ、R&B、ポップスなど多彩なルーツを歌いこなすJUJUの歌声が今年も全国に響き渡る。

(文=伊藤亜希)

© 株式会社blueprint