【バイタルエリアの仕事人】vol.37 乾貴士|「リズムを変えて相手の意表を突く」トップ下で輝く35歳の類まれなサッカーセンス「小学生の時から意識しているのは…」

攻守の重要局面となる「バイタルエリア」で輝く選手たちのサッカー観に迫る連載インタビューシリーズ「バイタルエリアの仕事人」。第37回は、清水エスパルスのMF乾貴士だ。

野洲高校では2年生時に全国高校サッカー選手権で優勝を経験し、卒業後の2007年に横浜F・マリノスでプロキャリアをスタート。翌年に移籍したセレッソ大阪で頭角を現した後、ボーフム、フランクフルト、エイバル、ベティス、アラベスと欧州のクラブを渡り歩いた。

そして、2021年にセレッソ大阪で10シーズンぶりのJリーグ復帰。翌年の夏からは清水エスパルスでプレーしている。

昨季、チームはJ1昇格プレーオフ決勝で東京ヴェルディに勝てず、あと一歩のところでJ1復帰を逃した。清水で3シーズン目となる今季、乾は昇格へ並々ならぬ思いだ。

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今年は秋葉(忠宏)監督になって初めてのキャンプでしたけど、近年では珍しいぐらいかなり走り込みました。最近はどんどんボールを使ったフィジカルトレーニングが増えているなかで、素走りのメニューが多かったですね。他のチームでもあまりないんじゃないかな。個人的に身体は良い感じに動いています。でも、まだコンディションは上げられるかなと思っています。

チームとしては連係面の細かいところでまだまだ合わない部分がありますし、もっと高めていかないとな、という感じです。選手同士で意見交換をしながらやれているので、徐々に合っていけばいいですけど、リーグ戦はスタートダッシュがすごく大事になります。勝ちながら自信をつけていきたいですね。

昨シーズンは最後の最後にJ1昇格を逃して、また今シーズンもJ2で戦うことになってしまい、やはり悔しさは残っています。でも、そういう気持ちがメンタル的にプラスになるようにやっていければと思っています。新しい選手たちも入ってきてくれたので、前向きに取り組めています。

今年は何がなんでもJ1に上がらないといけない。J2は昔と比べると、かなり難しくなっているのは事実です。もちろん、対戦相手との相性などもありますが、どこと戦っても楽な試合はないです。でもJ2に1年、2年と残ってしまうと、なかなか昇格のきっかけを掴めなくなってきてしまいますし、チームとしての価値も下がってしまうかもしれません。もともとJ1で長く戦っていたチームが上がれずに苦戦してしまうケースも多いので、ずるずると行かないように今年でなんとか昇格したいです。

【動画】独走ドリブル→右足一閃! J2最優秀ゴール賞に選ばれた乾貴士の痛快ミドル弾

乾はこれまで主にサイドを主戦場としてきたが、秋葉監督になって4-2-3-1のトップ下にコンバートされた。昨季はJ2で34試合に出場して10ゴール・10アシストをマークし、J2の年間ベストイレブンに選出。さらに第25節の大分トリニータ戦(2-1)で決めたミドルシュートは、J2の年間最優秀ゴールに選ばれた。

トップ下で輝く35歳が、バイタルエリアを攻略するうえで意識していることとは?

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秋葉監督になってトップ下でプレーするようになり、攻撃面ではある程度、自由にやらせてもらっています。でも、その自由というのが僕は一番責任があると思っていますし、難しいと感じています。ただ、それは自分が選んだ道でもあって、チャレンジしたかったことではあります。やりがいはすごく感じていますが、逆にチームが勝てなかったり、結果が出なければ自分のせいだと思っています。

これまでプレーしてきたサイドのポジションは、基本的に足が速かったり、キレがある選手がやるべきだと思っています。僕は年齢的にもやはり、スピードやキレは以前に比べると年々落ちてきているので、なかなか難しいかなと感じています。それは自覚している部分でもあります。

その点で言えば、トップ下はボールの置き所や受けるタイミング、駆け引きでスピードやキレの部分はカバーできるポジションだと思っています。サイドも真ん中もどっちも好きなポジションですが、トップ下のほうがボールをたくさん触れるという点では良いかもしれないですね。

これまでと違うポジションでプレーしているからと言って、自分が持っているサッカー観はまったく変わっていませんし、特別に何かプレーを変えたというのもありませんが、今までみたいにドリブルで相手を抜きに行くというよりは、よりシンプルにプレーするようになりました。

バイタルエリアでは基本的に前を向くことが大事だと考えています。後ろ向きの状態になったとしても、常に前を意識していますし、縦や斜めのパスを狙っています。そういうところをいかに突いていけるか、タイミング良くパスを出せるかを考えています。

あと、プロでも一つひとつのパスを出す時に、隣の選手につけていくだけで各駅停車のようになってしまっていることが多いんですよ。

僕が小学生の時に監督から教えられて、今でも意識してやっていることがあるんですけど、たとえば、AからB、BからCと順番にパスを繋ぐのではなくて、AからB、BからA、AからCというようにリズムを変えながら相手の意表を突いたり、バランスを崩したりを考えながらプレーしています。

もちろん、リスクがある時もありますけど、どこかでわざとリターンパスを入れたり、テンポを変えたりしないと、相手は食いついてこないし、崩れないと思います。常に相手の逆を取っていくようにやっています。

その感覚がある人とない人の差は大きいと思いますね。逆に言うと、そういう同じ思考を持った選手が集まったチームは強いですよね。

※後編に続く。次回は2月29日に公開予定です。

取材・構成●中川翼(サッカーダイジェストWeb編集部)

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