名品「桂雛」、春の兆し 茨城・城里の県郷土工芸品 衣装に趣向、結城紬も人気

上品なたたずまいの桂雛と、3代目を担う人形師、小佐畑孝雄さん=城里町阿波山

桃の節句を前に、茨城県郷土工芸品に指定されているひな人形「桂雛(かつらびな)」の制作が、同県城里町阿波山の里で静かに続けられている。人形師、小佐畑孝雄さん(51)=桂雛社長、町無形文化財の選定保存技術保持者=が祖父の代からの技を継承し、名品を世に送り出している。一昨年から、ロシア軍のウクライナ侵攻などに伴う物価高のあおりを受け、人形の買い控えが続いた。しかし、今春は結城紬(つむぎ)の衣装をあしらった人形など、良い品を求める人が増えてきたという。

桂雛は、昭和の初めごろ茨城・水戸で修業し、独立した孝雄さんの祖父、小佐畑喜士さん(1917~2000年)が創始した。現在は、2代目の初江さん(80)=喜士さんの長女、孝雄さんの母=の後を継いだ次男の孝雄さんが1996年から3代目となっている。

人形作りの工程には、何十人もの職人が関わっている。同社が自前で行うのは、人形の胴体と衣装作り、着せ付け、頭や手足の取り付けの部分。顔は、自前で型起こしするが、目や眉を描く作業や髪結いは他産地の職人に委ねている。衣装で使う西陣織や結城紬などの生地も、それぞれの産地から取り寄せている。

衣装を作る際、湿気や防虫などの対策で生地の裏に西ノ内和紙を貼るのが〝桂雛流〟。「祖父の頃からのやり方」(孝雄さん)を守っている。顔については初代、喜士さんの「見る者の心を映すよう、表情をつけない」という考え方を継承している。

工房で手がけるのは、お内裏さまとおひなさまのペア「親王飾り」がメイン。型起こしから1組仕上げるのに約1カ月かかる。既存の型を使う場合なら、衣装作りに習熟したスタッフ、長山久美さん(38)と二人三脚で「年に70~80組は作れるようになった」という。

工房と同じ建物に店舗兼ギャラリーで、人形を展示。顔の表情や衣装の色、サイズなど、バリエーションのある実物を間近で見比べることができる。

価格は、使う生地の等級などで変わる。絹糸などの値上がりが反物にも影響しているが、同社では今のところ、人形の価格を企業努力で変えていないという。

孝雄さんは「物価高の始まった矢先は契約に至りにくかった印象があったが、今年は高いものが売れている。結城紬を使った商品の購入が去年より増えている」と、見えた光明に笑顔を見せた。

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