《リポート》〝赤字〟経営 揺れる存廃 茨城・大洗町「ゆっくら健康館」 25年度判断 進む老朽化、授業で利用

大洗町健康福祉センター「ゆっくら健康館」2階の日帰り温泉=同町港中央

町民の健康増進のため、1999年に開館した茨城県大洗町の町健康福祉センター「ゆっくら健康館」(同町港中央)が廃止の危機に立たされている。利用者数が伸び悩み、開館以来、収支がマイナスの〝赤字〟経営に苦しみ、施設の老朽化も進んでいる。町議会特別委は「廃止に向けて検討するべき」と報告。町は2025年度中に廃止も含め、今後の在り方を判断する。町民からは存続の要望書も提出され、「存廃」の両論が行き交う。

▽利用者数減少

同館は、1階に同館を所管する町健康増進課や保健センターなどが入り、2階に日帰り温泉、温水プール、ジムの健康増進施設と飲食店を備える複合施設。福祉関連の相談、健康診断から体力づくりまで「ワンストップに近いかたちで町民の健康づくりを支える福祉の中核施設」(健康増進課)として設置された。

ただ、利用者数は開館初年度の約21万4000人をピークに減少傾向で、コロナ禍前の19年度に約13万4000人、20年度は約6万7000人と過去最低に。同年度までの22年間に累積された〝赤字〟は約23億2000万円に上る。

新型コロナ禍前の19年度は約13万4000人が利用し、収入は約5630万円、一方、人件費や光熱費などの経費は約2億480万円で、約1億4850万円のマイナス。町はこれまでの運営に「赤字の認識はなく、福利厚生のための施設を運営する上で必要な経費を補塡(ほてん)した」との考えを示す。

▽運営に努力も

危機感を持った町は、21年度からNPO法人「日本スポーツ振興協会」(JSPI、茨城県つくば市)を指定管理者として、2階施設の運営と全館の維持管理を5年間の契約で委託。指定管理費は年間1億3000万円。

同法人によると、利用者サービス向上として、プールとジムのスタジオを使った無料プログラムの拡充や、トレーニング機器の利用法の講習会を開くなどの運営努力を実施。同法人在籍の技術者が修理を手がけることで、22年度は50万円以上の支出縮減に成功したという。

委託初年度の利用者数は約9万2000人、収入は指定管理事業(利用料など)と自主事業(トレーニング指導など)を合わせて約1億8497万1000円、支出は両事業で計約1億8514万9000円で約17万8000円のマイナスとやや改善。翌年度の利用者数は約10万1000人と回復し、収入は両事業で計約1億9100万円。だが、電気代やボイラー燃料費などの高騰が追い打ちとなり、収支は約500万円のマイナスだった。

▽「町には負担が大」

町議会は20年末に「ゆっくら健康館運営調査特別委」(坂本純治委員長、委員12人)を設置し、運営の在り方を調査。昨年9月の定例会に提出した審査報告書では「町で維持管理するには負担が大きい」や「施設の老朽化は事実」「近隣市町村に同様の施設は10カ所あり、町民の多くは水戸市内の施設を利用する」などと指摘。委員間で実施した今後を問うアンケートでは「廃止に向けて検討を進めるべき」の選択肢(複数回答可)に10票が入った。

一方、町唯一のプールとして町立4小中学校が水泳の授業で利用していることから「慎重な検討を」との意見もあった。

1月末、町に存続の要望書を提出した町内の80代女性は「開業してから毎日来ている。免許を返納しても徒歩で通える距離に温泉があるのはいい」と話す。同じく70代女性は「ここには長い付き合いの友人がいる」と存続を求めた。

町は指定期間の満了する25年度に向け、廃止や存続、一部機能を残すことなども視野に総合的な検討を進めて判断するとしている。

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