エヌビディアの好決算は「きっかけ」でしかない、日経平均が史上最高値を更新した要因とは?

日経平均は2月22日、1989年12月末につけた値を超え、34年ぶりに史上最高値を更新しました。株価はその後も上がり、3万9000円台をつけています。日経平均の年初からの上昇幅はすでに5000円を超えています。この急ピッチの株高のきっかけは米半導体大手エヌビディアの好決算でした。そのエヌビディアの時価総額は前週末23日に一時2兆ドルを上回りました。いま株式市場では、「エヌビディア祭り」という言葉が躍っています。

しかし、エヌビディアの好決算は前述した通り、あくまで「きっかけ」でしかありません。今回の最高値更新の背景には、より大きな構造要因があります。日経平均の史上最高値更新はメディアでも大きく報じられ、その背景についての解説も多く語られていますが、ここでは改めて筆者の見方を述べたいと思います。


株高の要因はインフレ

この株高は日本の経済、社会、企業の変化を反映したものだというのが筆者の考えです。「変化」といっても、様々な「変化」があります。まっさきに挙げられるのが、デフレーション(以下、「デフレ」)からインフレーション(以下、「インフレ」)への転換という変化です。日本経済が長年、低迷してきた背景は端的にいってデフレが原因です。「デフレ・スパイラル」という言葉がある通り、日本経済の悪循環はひとえにデフレによってもたらされてきたといっても過言ではありません。

いちどデフレがしみついてしまうと、そこから抜け出すのは容易ではありませんでした。黒田・前日銀総裁時代に異次元の金融緩和をおこなっても、日本経済はなかなかインフレには転換しませんでした。

ところが、ほぼ「棚ぼた」的に日本もインフレになったのです。コロナ禍によって起きた供給制約で、海外で強烈なインフレが進行しました。その海外発のインフレが国内にも輸入インフレの形でもたらされ、国内の物価もじわりと上がり始めました。それが日本国内の人手不足と相まって、大幅な賃上げの機運も生まれるようになりました。

経済的にはインフレには良い面も悪い面もありますが、株価にとってはプラスです。インフレは株価を押し上げます。というのは、株価は名目の値だからです。そんなことをいい出せば、我々が目にするモノの価格はすべて名目値です。商品の値も原材料の値もすべて名目の値段。ですから物価が上がれば、商品の値段も上がり売上高は増加します。原材料費の増加ペース次第ですが、インフレが定着する経済では企業は原材料費を適切に価格に転嫁しやすくなり、基本的にはやはり名目の値である利益も増えます。こうしてインフレは株価にはプラスの効果があるのです。

バブル崩壊を招いた不良債権問題はカタがついていた

インフレになったことが株高の理由である、というのは、経済的には上記の説明ですが、実はもっと深い意味があると思っています。それは、デフレは日本の経済と株式市場低迷の象徴であり、その終焉こそが株価浮上の大きな原動力となる(なった)からです。

日本経済がデフレに陥った要因は、1980年代末期に膨張し過ぎたバブルの崩壊であり、それが招いたのが銀行の不良債権問題でした。バブル崩壊=株価下落の過程というのは、ひとえに日本の金融危機への道であり、いってみれば時間をかけて緩やかに破局に向かった日本版リーマンショックです。政府の対応が遅かったため、サドンデス(突然の死)ではなく、ゆっくり時間をかけて、じりじりと破局に向かい、そこからの回復もまた時間がかかるといった類のものだったのです。

実は不良債権問題は2003年のりそな銀行への公的資金注入でいったん、カタがついたのですが、そこからの持ち直しに時間がかかったのもそういう理由です。

しかし、時間はかかりましたが、株安の本源的理由=バブル崩壊による日本の不良債権問題はとっくに解決されていました。実際に、株価は2003年に底を入れています(その後、リーマンショックの2番底が大底になりますが)。

「儲かる経営」が日本株の再評価につながる

デフレが終わってインフレになったという「マクロ」面の変化に加えて、企業自身の変化という「ミクロ」面の要素もあります。すなわち日本企業の経営改革です。コーポレートガバナンスの意識の高まりから株主還元が活発に行われるようになりました。

東証の要請もあって資本コストや株価を意識した経営に取り組む企業が増えました。PBR(株価純資産倍率)を上げるためにROE(自己資本利益率)を向上させようという機運も高まり、企業は不採算事業から撤退し、「儲かる経営」に舵を切っています。これらが日本株の再評価につながっているのです。

さて、これらの変化が株高の大きな背景ですが、他にもいくつかの要因があります。それは、これらの変化の兆しを感じ取った海外投資家の買いであり、中国からの資金シフトであり、米国株をはじめとする世界株高の流れであります。そこに加えて日本固有の要因として、日銀の金融緩和の継続観測、それを背景とした円安基調、そして好調な企業業績などが挙げられます。

細かい点を挙げれば、きりがありません。今の株高は日本の大きな変化を買う相場です。この変化の流れが途切れない限り、株高は続いていくでしょう。

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