43歳専業主婦がある日突然「子どもも家も奪われて」起きたこととは?あまりの理不尽に言葉もない

2月15日、法務省法制審議会は「共同親権」を可能にする民法改正要綱を答申しました。「共同親権」とは、離婚後は父か母のどちらか1名に子の親権が帰属する現状の「単独親権」ではなく、離婚後も父母の双方が子の親権を持つ方式です。政府は今国会にも民法改正案を提出する方針です。

この改正の背景には「子の連れ去り問題」があります。離婚を考える親が親権を確保するための監護実績を作ろうと、子どもを連れて姿を消す事象で、海外では「誘拐」と判断される違法行為です。

長年この問題を追いかけてきたライターの上條まゆみさんが、連れ去りの実態を解説します。

【共同親権を考える#2】

ある日突然、夫と2人の子どもが「失踪」した。寝耳に水の離婚のメール

わたしが上田茉莉子さん(仮名・47歳)に出会ったのは、3年半ほど前である。そのころの茉莉子さんは、暗い顔をして泣いてばかりいた。実は彼女はかなりの美人さんなのだが、わたしはその美貌に長いこと気づかずにいた。それくらい、どんよりとしたオーラに包まれていたということだ。

茉莉子さんが泣いていたのも無理はない。当時、茉莉子さんは夫によって、9歳の娘と5歳の息子と引き離されたばかり。

「夏休み中のある日、夫が自分の実家に子どもたちを連れて遊びに行ったまま、なかなか帰ってこなかったんです。LINEを入れても、実家に電話をかけてもつながらない。どうしたのだろうと思っていたら、夫から離婚を前提に別居を求めるメールが入りました。もう家に戻るつもりはない、これからは弁護士を通してくれ、と」

たしかに、ここ数年、夫婦仲は悪かった。子育てをめぐる価値観の違いで、言い争いが絶えなかった。でも、いきなり離婚なんて。しかも、勝手に子どもたちを連れていくなんて。茉莉子さんは呆然とした。

慌てて実家を訪ねたが、義母が出てきて「茉莉子さん、ごめんね。弁護士を通してください」と繰り返すばかりで子どもたちに会うことはできなかった。

仕方なく家に戻ると、実家近くの警察署から電話があった。夫から「子どもへの虐待があるから、実家に近づかないでほしい」という相談があったとのことだった。

「私は虐待などしたおぼえはありません。下の息子はやんちゃで、私をピシピシ叩いたりするので、それを防ぐために手を押さえたことはあるけれど……」

どこの家庭にもある、親子げんかを夫は「虐待」と大げさに言い立てたのだと、茉莉子さんは憤慨する。

どう考えても誘拐なのに…こちらが悪いことにされて「ブロックされて」いく

茉莉子さんが知らないうちに、子どもたちの転園・転校手続きまで済まされていた。夏休みが終わると、子どもたちは実家近くの幼稚園、小学校に通い始めたようだった。

新しい幼稚園と小学校は、子どもと離れて暮らす茉莉子さんを「保護者」とは認めてくれなかった。

「私が幼稚園と学校に『子どもの様子を教えてほしい』と頼んだら、『同居親から止められているので何も話せない』と断られてしまいました。離婚をしていないので当時、私はまだ親権者だったのに」

実家には近づけない。園や学校に様子を見に行くこともできない。子どもに会えない時間が積み重なっていく。

茉莉子さんは、弁護士を立てて面会交流調停を申し立てた。夫は「子どもがいやがっている」と言い、面会交流を拒否した。

「夫は、私が離婚を受け入れたら子どもたちを会わせる、と言いました。子どもを人質に自分の要求を通そうとするなんて、まるで誘拐では?」

現状、日本の法律では、婚姻中は両親が子どもの親権をもつ共同親権、離婚をするとどちらか片方が親権をもつ単独親権を採用している。茉莉子さんは子どもたちの親権を失うことが怖く、離婚を承諾できなかった。

最終的に、家庭裁判所で認められたのは、月1回の間接交流――茉莉子さんが子どもたちに月1回だけ手紙を書いてもよい、とだけ。

「一方的に手紙を送るだけで、子どもたちからの返事はなし。そもそも読んでいるかどうかもわからない。これで交流と言えるのでしょうか」

刑務所に囚われた受刑者でも、面会が認められている。罪を犯したわけでもないのに、なぜ子どもに会うことすら制限されるのか。どう考えても、茉莉子さんにはわからないままだ。

ここまでの前編では茉莉子さんが子どもを連れ去られ、窮地に陥る経緯をお話いただきました。後編では茉莉子さんが振り返った自分自身のあり方と未来についてお聞かせいただきます。

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