松井ニット技研 廃業へ(群馬・桐生市) 

ニッティングインのマフラー

 群馬県が取り組む後継者募集事業を活用し、事業承継を目指していた松井ニット技研(桐生市本町、松井敏夫社長)が、承継を断念したことが分かった。複数の応募者と実際に交渉したが、条件面などで話がまとまらなかったという。一方、事業承継できなかった場合、当初は今月末での廃業を予定していたが、当面先送りして在庫のネット販売などを継続する。

 同社は1904(明治37)年創業。国内外で高い評価を得ているマフラーブランド「KNITTING INN(ニッティングイン)」を展開している。ただ、家族経営の同社には後継者がいないことから、6代目の松井社長(80)が事業承継の可能性を探ってきた。

 松井社長によると、県や市に対して昨年、2024年2月で廃業する意向を伝えたところ、「世界的ブランドの灯を消すわけにはいかない」と後継者募集事業の活用を打診された。

 松井社長は「真面目に頑張って承継してくれる人がいたら」との思いから提案を承諾。昨年9月以降、県が企業の合併・買収(M&A)のマッチングサイトを手がけるバトンズ(東京)と連携して開設したサイト「ミライマッチング」で、後継者を募集してきた。

 これまでに複数の応募者が同社の工場を訪れ、縦のストライプを織りなす年代物の「低速ラッセル編み機」や「整経機」などを見学した。しかし、松井社長は、工場や機械を確認した人たちが「『これは手に負えない』という印象を一様に持ったようだった」と振り返る。

 最終的に条件面などで折り合わず、県にサイト掲載の削除を依頼した。松井社長は「生産して売れるようになるには技術が必要で、それなりの年月がかかる」と事業承継の難しさを口にした。廃業は決定的となったが、時期については当初予定していた今月末とせず、当面はネット上などで在庫の販売を続ける。

 同社の廃業について、桐生商工会議所の石原雄二専務理事は「桐生を代表するブランドで、モノづくりをけん引してきた企業だけに残念。何らかの形で存続することができれば」と語った。県地域企業支援課の板野浩二課長は、「県内の貴重な技術、製品、サービスが失われないよう、今後も後継者不足のための施策に諦めずに取り組みたい」としている。

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