雛の宴(2月29日)

 〈目隠しをとれば雛[ひいな]の笑顔かな〉。江戸時代の俳人で、須賀川市出身の市原多[た]代[よ]女[じょ]が詠んだ。飾ると良縁に恵まれるとされる「雨水」が過ぎ、お内裏様とおひなさま、温かなぼんぼりが茶の間を彩る▼多代女が生まれたまちなかの商店や飲食店48軒では、愛らしいひな人形が来訪者を出迎えている。電気店の店先には明治、大正、昭和と各時代のひな飾りが並び、つるし雛もあでやかだ。美容室では伝統的な人形と並んで西洋風の6体が、ひときわ目を引く。秘められた逸話を店の人たちが教えてくれる▼「雛の笑顔に会えるまち」と銘打ち今年で20回を数える。商人の町ならではの地域おこしとして、各店が大切に保管してきたひな人形に出番が回った。2011(平成23)年には最多の70店が参加したが、1週間後に大きな揺れが襲う。土蔵も人形も壊れた。高齢化で跡継ぎが見つからず閉じてしまった店もある▼それでも春の風物詩は受け継がれ、雛に会おうと訪れる人は絶えない。昨年のスタンプラリーには県内外から800人が集った。「雛まつり」にちなんだ俳句を3月3日まで募っている。優しい表情をめで、僭越[せんえつ]ながら一句。〈古里に笑顔連れくる雛の宴〉〈2024.2・29〉

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