【衆院政倫審】首相は説明の範を示せ(2月29日)

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会は迷走を重ねた末、岸田文雄首相が党総裁として出席する流れに急転した。全面公開で臨む岸田首相に安倍、二階両派の5人が追従する形で開催が決まった。名ばかりで終われば不信感は払拭できず、むしろ極まるだけだ。首相自ら説明責任の範を示す必要がある。

 公開の有無を巡る一連の与野党協議で、国民の疑念に背を向けるかのような自民党の消極的な姿勢が浮かび上がった。岸田首相の指導力も問われ続けた。

 突然の出席表明に際し、岸田首相は政倫審の開催が決まらぬ状況に「国民の政治に対する信頼を損ねる。政治不信がますます深刻になる」との強い危機感を口にした。新年度予算案の年度内成立に向けた衆院の採決期限が目前に迫る中、膠着[こうちゃく]化した局面打開の窮余の策なのだろう。しかし、こうした事態を招いた責任は首相自身にもある。

 政倫審への出席も、公開の有無も当事者の意向による、といった発言を衆院予算委員会で繰り返す姿に、協議を前進させる姿勢は伝わってこなかった。政倫審の仕組みにはかなうとしても、政治とカネ問題への不信感は、原則非公開という制度の建前でかわせるほど軽くはない。もっと早い段階で指導力を発揮すべきだった。今回も後手感が付きまとう。

 岸田首相を巡っては、就任を祝う会の主催団体が収益の一部とみられる資金を首相の関連政治団体に寄付した事実が明らかになっている。参加予定者宛て文書の問い合わせ先に岸田事務所の連絡先が記載されるなどしていた。野党は実質的に首相側主催の政治資金パーティーだと主張し、未記載の収支明細の開示を国会で要求した。首相は「任意団体による純粋な祝賀会だ」と応じていない。

 初日の政倫審で、この問題が取り上げられた場合、従来の説明や弁明をただ繰り返すようでは、政倫審は開く意味をなさなくなる。党総裁として出席を自ら申し立てた責任は、国民に届く覚悟を持った言葉で政倫審を先導することにあるのではないか。

 他の5人も同様だ。弁明すべきは野党にだけではない。国民に対してだと、肝に銘じてもらいたい。(五十嵐稔)

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