190センチCB小泉佳絃に突きつけられた厳しい現実。頭と心をアップデートし、成長への階段を上り始める

「優勝の余韻に浸っている暇はありません」

2月27日からJヴィレッジで開幕したデンソーカップチャレンジ福島大会。日本高校選抜の一員としてプレーする青森山田のCB小泉佳絃は、初戦の東北選抜戦を戦い終えた後、こう口にした。

190センチの圧倒的な高さを活かした空中戦は攻守において相手の脅威となり、正確なフィードやビルドアップ、対人の強さと粘りのディフェンスは彼の代名詞。

今年の1月8日、国立競技場で行なわれた第102回全国高校サッカー選手権大会の決勝戦で、同じ高校選抜でプレーするCB山本虎と共に、名門の最終ラインを統率し、チームを優勝に導いた。プレミアリーグを含む2冠を達成した『ユースサッカー界の横綱』のCBは一躍脚光を浴びたが、その1か月後、進学する明治大の練習に参加すると、一気に厳しい現実を突きつけられた。

関東選抜Aにも選ばれているFW中村草太、U-20日本代表のMF熊取谷一星という、すでにJクラブが争奪戦を繰り広げているタレントと紅白戦などでマッチアップすると、面白いように手玉に取られる自分がいた。

「技術がずば抜けていて、言葉にできないくらい強くて、速くて、賢かった。大学日本一の凄まじさを痛感しました」

明治大は昨年インカレを制するなど、大学サッカー界の雄である。高校で頂点を極めたが、さらにその先に高い頂があることをたった1か月で思い知らされたのだった。

「CB陣も本当にうまくて、『これこそ日本一になる集団だな』と思いました」

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1学年上には高校の先輩であり、U-20大学選抜にも選ばれている多久島良紀がいる。ずっと一緒にやってきた存在だったが、大学でCBコンビを組んでみると、「当たりの部分はもともと強かったけど、コーチングがかなり進化していました。すごく的確で、僕が判断しやすかった。そこは目標にするべきところだと思いました」と、1年間での大きな成長に驚きを隠せなかった。

ただ驚いただけではない。「僕は向上心、素直さが武器でもあると思っている」と口にするように、中村や熊取谷のプレーや多久島のコーチングを参考にして、対応力や発信力を身につけようと意識を変えた。

「ラインコントロール1つ取っても、上げ下げを頻繁にやるし、かつ速い。僕はスピードがある方だと思っているのですが、予測や駆け引きのスピードが中村さんや熊取谷さんはずば抜けていて、僕の動きを見て逆を仕掛けてくる。僕の一歩が遅れることが原因でちぎられてしまうので、常に頭を使って判断や駆け引きのスピードは上げていかないといけないと思っています。

まだ明治大に合流して1か月足らずですが、そういう課題を突きつけられたことで、このデンチャレも明治大で体感したことを試す重要な舞台になりましたし、大学トップレベルの強度に慣れる機会だと思っています」

小泉にとって厳しい現実は、この上ない刺激と成長へのチャンスが詰まっている大きなものとなった。もう選手権優勝は過去のこと。きちんと頭と心をアップデートして、成長への階段を上り始めた小泉の姿がそこにはあった。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)

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