食、娯楽支えた58年に幕 長崎・浜町の商業ビル「S東美」きょう閉店

1966年の開店当時のS東美(東美提供)

 長崎県長崎市浜町のスーパーS東美は29日午後7時、入居するビルの老朽化のため、58年の歴史に幕を下ろす。かつては映画館やゲームセンター、飲食店なども入り、浜町エリアを代表する商業ビルとして親しまれたが、3月以降に解体される。
 58年間のご愛顧ありがとうございました-。1階では運営会社東美の佐々木達也社長(67)のメッセージと共に、創業時からの歴史を伝える写真パネルを展示している。三原1丁目の中村千恵さん(60)は「思い出がよみがえる」と熱心に見入っていた。10代の頃、ビル内の書店に通ったのをきっかけに本好きとなり、学校司書になった。この場所は夢の原点。「久しぶりに来て、いろいろ思い出した。長崎らしい場所がどんどんなくなり、とてもさみしい」と惜しんだ。
 地下スーパーでは、手づくりのおかずや弁当が並び、多くの買い物客が手に取った。佐賀市の会社員山口彩加さん(42)は「ここの総菜に育てられた」と言い切る。長崎市を離れて20年以上が経つが、思い出の味を最後に食べようと来店した。「働きながら1人で私を育ててくれた母には、この店が心強かったはず」。自身も母になった今、そう痛感する。「私にとっての『母の味』。久しぶりに親子で食べます」と野菜炒めをかごに入れていた。
 「自分と(店が)同い年と今日知りました」。店に豆腐などを納める九一庵の社員𠮷村哲郎さん(58)は感慨深そうに店内を見回した。1995年の会社の設立当初から安定した売り上げを保つ取引先。「会社としても閉店は痛手だが、それ以上に『浜町の顔』がなくなるのが残念。こんなに愛されている店はなかなかない」としみじみ語った。
 売り場で常連客にあいさつする佐々木社長の姿もあった。「閉店が決まってからも『続けてほしい』や『この場所が私の青春』といった声をかけてもらった。ありがたい一方で閉店は本当につらい」と唇をかむ。店の売り上げは好調だが、客や従業員の安全を守るための苦渋の決断。代替店の適地を数年前から探しているが、見つかっていない。
 東美は市内で衣料品を扱う「東洋美装店」が前身。現ビルは66年に完成し、上層階で映画館などの娯楽施設、下層階でS東美が営業した。82年7月の長崎大水害では地下スーパーが水没するなど甚大な被害を受けたが、福岡や東京から食料品を調達し、2日後には営業を再開した。「お客さまの普段の食卓を、普通の毎日を支えることが、私たちの役割」と佐々木社長。感謝と誇りを胸に、最後の営業日も、いつもと変わらない笑顔で買い物客を出迎えるつもりだ。

閉店前日も多くの買い物客が訪れたS東美=長崎市浜町

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