物価目標の実現、ようやく見通せる状況になってきた=高田日銀委員

Takahiko Wada

[大津市 29日 ロイター] - 日銀の高田創審議委員は29日、経済の不確実性はあるものの「2%物価目標実現がようやく見通せる状況になってきた」と言明した。イールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みやマイナス金利の解除、オーバーシュート型コミットメントのあり方など、出口への対応も含め「機動的かつ柔軟な対応に向けた検討も必要だ」と述べた。

滋賀県金融経済懇談会であいさつした。高田委員が物価目標の実現に踏み込んだことで、市場における早期の政策修正観測が一段と高まる可能性がある。

高田委員は、企業の賃金・価格設定行動に変化が生じ、賃金や物価は上がらないとする日本社会に根付いた考え方がようやく転換する「変曲点を迎えている」と指摘。現行のきわめて強い金融緩和からの「ギアシフト」が必要だと語った。

<フィリップス曲線「上方シフト」、持続的な物価上昇の見方>

高田委員は、日銀が目指してきた賃金と物価の好循環について、楽観的な見方を示した。サービス価格は緩やかに上昇していると指摘。消費者物価上昇率に占めるサービスの寄与度は、米欧に比べればなお小さいものの「すでに過半に達している」と述べた。

今春の賃金改定については「賃上げ機運が高まっている」と指摘した。春闘の集中回答日は3月13日で、その直後の18日から金融政策決定会合が開かれる。

高田委員は予想物価上昇率が底上げされてきていると指摘。インフレ率と需給ギャップの相関関係である「フィリップスカーブ」について、バブル崩壊以降のデフレ期に下方シフトしていたが「長年の金融緩和も相まって上方シフトした」とし、持続的な物価上昇の実現につながり始めたと解釈できるとした。

日銀は22年12月に10年金利の許容変動幅を拡大、昨年も2度にわたってYCCの運用を見直した。高田委員は一連の見直し後も、短期・長期の実質金利は低水準で推移しており「緩和的な金融環境は継続している」と話した。

<出口戦略、「長い目で見れば中銀の収益はいずれ回復」>

高田委員は出口戦略における中央銀行の財務にも言及した。金融政策が引き締めに向かい、バランスシートが縮小する局面では、当座預金への付利金利引き上げで中央銀行の収益が下押しされるものの、当預が減少すれば支払利息も減り、保有国債の満期時の再投資で利回りの高いものに入れ替われば受け取り利息が増えるとして、「長い目で見れば中央銀行の収益はいずれ回復することになる」と述べた。

一時的に赤字や債務超過になっても「政策運営能力は損なわれない」とする一方、いくら赤字や債務超過になってもいいわけではなく「中央銀行の信認の低下につながることを回避すべく、財務の健全性に留意しつつ適切な政策運営に努める必要がある」と述べた。

(和田崇彦)

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