『トゥモローランド』博覧会から紐解くディズニーランドのルーツ(後編)

『トゥモローランド』という映画は、世間では今一つ不人気で、興行的には失敗作とされている。しかし筆者は、この映画を愛してやまない。それは、1960年代中期まであった「ワクワクするような未来への期待感」と、それをストレートに視覚化した映像表現。そして、あちこちに散りばめられた「博覧会の歴史」の描写が、何とも魅力的だからだ。Expo’70のパビリオンの行列に並んだ“万博世代”には、胸がキュッとする感覚がある。

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あらすじ⑤


逃走する車内では、ケイシー(ブリット・ロバートソン)を巻き込んだことに対して、アテナ(ラフィー・キャシディ)とフランク(ジョージ・クルーニー)が論争を始める。アテナは、世界を救える可能性を持つ人物を探し出すように、プログラムされたリクルーターのAAで、フランクも彼女に選ばれた一人だった。しかし、人類の絶滅は避けられないことを導き出す装置を開発し、あの世界から追放されたのだと言う。この時、ケイシーがフランクの屋敷から1キロトンの爆弾を持ち出していたことが判明する。

アテナは、フランクが関係しているニュース放送局に車を着ける。そこの地下には、密かに設置された転送装置があったのだ。そこに乗り込むまでの過程で、フランクが「エジソンチューブ」と呼ばれる“何か”を持ち出していたこと、そしてアテナも25年程前にあの世界から追放されていたことが明かされる。

三人が転送された先は、エッフェル塔の第三展望台だった。この内部は、塔の設計者であるギュスターヴ・エッフェルの部屋が保存されており、エッフェルとトーマス・エジソン、ニコラ・テスラ、ジュール・ヴェルヌらの蝋人形があった。フランクは「彼らがプルス・ウルトラの創設者たちだ。テスラは、あらゆる種類の信号を受信するアンテナを発明し、そして別次元の世界の存在を発見した」と説明する。

『トゥモローランド』(c)Photofest / Getty Images

そして、そこにあった蠟管式蓄音機にエジソンチューブをセットすると、エッフェル塔が左右に分離し、さらに地下から「スペクタクル」と呼ばれる、ビンテージトイのようなデザインの巨大ロケットも出現した。三人が「スペクタクル」の先端部のカプセルに乗り込もうとした時、AAの暗殺者たちも塔を登って来る。フランクは急いで発進させ、カプセルにしがみ付いたAAを振り落とし、そのまま月まで飛んで行った。だがそこでコースを変え、別次元の地球へ突入していく。

そして三人は、次元を超えて未来的な都市へと辿り着く。フランクはこの世界の名前が「トゥモローランド」だと教えるが、それは彼女がかつて見た風景とは一変し、(終了後の博覧会場のように)寂れた場所だった。やがて、この世界の指導者ニックス(ヒュー・ローリー)が空飛ぶ乗り物で現れ、形式的に三人を出迎える。だが彼は、かつてフランクを「トゥモローランド」から追放し、アテナも解体する計画だった。しかしフランクは、「ケイシーには未来を救う力がある」とニックスに伝える。

なぜエッフェル塔なのか


ストーリーを真面目に考えるなら、「転送装置があるのだから、直接行けば良いではないか」となるだろう。しかし、脚本を担当したデイモン・リンデロフは、あえて登場人物たちをエッフェル塔へ立ち寄らせた。このことも本作のサブテーマが、博覧会の歴史と関係していることを意味している。

そもそもエッフェル塔は、フランス革命100周年を記念して1889年に開催された、「第4回パリ万博」のシンボルタワーだった。引き続きエッフェル塔は、博覧会史上空前の規模となった、1900年の「第5回パリ万博)(https://www.youtube.com/watch?v=2Y6xXWq1Tik)」でも中心的な存在となる。この時は電力の普及により、7,000灯の照明が取り付けられた。その後、解体される予定だったが、軍事用の電波塔としての活用法が提案され、取り壊しを免れて今日に至る。

プルス・ウルトラの創設者たち:ヴェルヌ


劇中では、エッフェルとエジソン、ヴェルヌ、テスラらが「プルス・ウルトラの創設者たち」と説明されている。エジソンが、この場所で暮らしていたエッフェルを訪ねたのは歴史的事実で、実際エッフェル塔内に蝋人形も設置されている。しかし、テスラとヴェルヌに関してはフィクションだ。

実はヴェルヌも万博との縁は深く、彼は1867年に開催された「第2回パリ万博」を訪問している。この博覧会には、プロンジュール)というフランス海軍の潜水艦模型が展示されており、ヴェルヌはここから直接ヒントを得て、三年後に小説「海底二万里」を出版している。

ちなみに「海底二万里」はディズニーによって、『海底2万マイル』(54)として映画化されるが、この時に造られたセットの一部が、1955年に開業した「ディズニーランド」(現ディズニーランド・パーク)のトゥモローランド・エリアにおけるアトラクション「20,000 Leagues Under the Sea(海底2万マイル)」として再利用された。

そして、ヴェルヌ最大のヒット作である「月世界旅行」だが、これも1901年にニューヨーク州バッファローで開催された「パン・アメリカ博覧会」のアトラクション「A Trip to the Moon」に影響を与えている。これは、世界初のシミュレーションライドであり、現在の「スター・ツアーズ: ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」の御先祖様である。だが、「A Trip to the Moon」のデザインは“空飛ぶ船”といった感じで、ヴェルヌが考案した砲弾式宇宙船とはかなり異なる。

『トゥモローランド』(c)Photofest / Getty Images

「スペクタクル」もさすがに砲弾式ではなく、古典的なロケットとして描かれた。それでも、わざわざ月の近くまで立ち寄るのは、「月世界旅行」へのオマージュだというのは明らかだ。

プルス・ウルトラの創設者たち:テスラ


もう一人のテスラは、ウェスティングハウス社と開発した二相交流発電機が、1893年の「シカゴ万博」に採用されている。この交流送電に関しては、直流派であったエジソンとの電流戦争(劇中でも少し触れている)が有名で、『エジソンズ・ゲーム』(17)や『テスラ エジソンが恐れた天才』(20)といった、映画の題材になっている。

またテスラは、無線で地球上のあらゆる場所に電力を送り届ける、無線送電システムの構想を抱き、実際ニューヨーク州ロングアイランドに、ウォーデンクリフ・タワーを建設して実験も行った。だがテスラは、地震兵器や霊界通信装置(*1)といった奇想を語るなど、マッドサイエンティストとして語られることも多い。そこで、「もし、この霊界通信装置が成功していたら」というのが、プルス・ウルトラの根拠になったのだろう。

*1 実際は、エジソンも霊界通信機を研究していた。また電球や映写機のように、本当はエジソンが発明したものではないものも少ない(電球はフィラメントの改良、映写機は他人のアイデアの購入)。映画事業では、ジョルジュ・メリエスの海賊版を作って儲けるなど、トンデモさんとしては、エジソンの方が色々と性格的にヤバい人物だったと言える。

あらすじ⑥


ニックスは三人を、かつてフランクが発明したという“モニター”(巨大な尖塔の横に球体が浮いている形状)(*2)に案内し、浮遊する円盤に搭乗して球体の中に入って行く。ニックスはケイシーに、「このモニターは超光速粒子タキオンを捕らえ、過去でも未来でも見ることを可能にしている」と説明する。機械の構造を一瞬で理解してしまうケイシーは、今度もすぐにモニターの操作方法を理解した。そして、自分が解体工事を妨害していた、ケネディ宇宙センターの第39A発射台の未来を確認する。すると、それは次々と壊されていくが、ある時点で画面全体に激しいノイズが入ってしまう。

ケイシーがさらに時間を進めると、核攻撃や暴動、各種の自然災害などによって、世界が崩壊していく様子が映し出される。フランクは、それが「58日後に起きる現実だ」と伝える。ケイシーは、「なぜ人々をトゥモローランドに移住させないの?」と質問するが、ニックスは「あの野蛮な連中を招けば、ここもまた地球同様になるだけだ」と答える。ケイシーが「まだ悲劇は始まっていない。私は認めないからね!」と反論すると、モニターに破滅を逃れた世界の映像が一瞬だけ表示される。フランクはニックスに確認を促したが、ニックスは彼を眠らせてしまう。

『トゥモローランド』(c)Photofest / Getty Images

目を覚ましたフランクは、そばで塞ぎ込んでいるケイシーに気付く。彼女は、「なぜ真実を知りながら、自分の頭にウソの映像を送り込んだの!」と怒っていたが、そのことから「あのモニターは、地球の人々に悲観的な未来のイメージを送り続けていたのよ!」と気付く。三人は、ニックスにそのことを報告するが、彼はまったく反応しない。なぜならニックスが、意図的にやっていたことだったからだ。

彼は、「人々の脳に、世界の終焉が近いというイメージを伝えれば、危機感を持って対処するだろうと考えた。しかし実際は逆で、彼らは滅亡の予感を貪り食い、映画やゲームなどで消費するだけだった。人類は良い未来を作るための行動を起こさず、単に諦めたんだ。悪いのはモニターじゃない。人間だよ」と言って、三人を地球の無人島へ追放しようとする。

*2 劇中に登場するモニターの外観は、1939年の「ニューヨーク世界博」のテーマパビリオンである、「トライロン&ペリスフィア」の形状がモチーフになっている。

希望ある世界


ここからの展開はネタバレになってしまうため、詳しくは書かない。ただ正直、ニックスというキャラクターの存在に、ムリヤリな感じを抱いてしまった。別にこの映画には、類型的な悪役など不要だったのではないだろうか。

さらには、ラストのメッセージがあまりに直接的で、説教臭いと感じる人もいるのではないか。これはディズニーのCEOである、ロバート・A・アイガーの影響があるのかもしれない。彼は、リベラルな政治活動家でもあり、人種差別やLGBTQといった問題について熱心なのは有名だが、地球温暖化など環境問題に関しても自ら取り組んでいるからだ。ただ筆者は、こういうストレートな表現は嫌いではない。少なくとも、絵画にスープをぶちまけている環境活動家よりは、意味のあることだろう。

『トゥモローランド』(c)Photofest / Getty Images

エンドクレジットの秘密


エンドクレジットでは、エッフェル塔(第4回パリ万博)、グローブ・セレステ(第5回パリ万博)、科学館のカリヨンタワー(1933年のシカゴ万博)、トライロン&ペリスフィア(1939年のニューヨーク世界博)、ニューヨーク州パビリオン(1964年のニューヨーク世界博)といった、過去の様々な博覧会のパビリオンをアレンジした、CGアニメーションで見せてくれる。

そのレトロなタッチは、1939年の「ニューヨーク世界博」のポスターを手掛けた、オーストリアのグラフィックデザイナー、ジョゼフ・バインダーを意識したのだろう。そして、このアニメの最期に登場するのは、もちろんディズニーランド・パークのトゥモローランドだ。つまりこの短い時間で、本作のサブテーマが「博覧会からディズニーランドに至った歴史」であることを表しているのだ。

文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。主要著書として、「3D世紀 -驚異! 立体映画の100年と映像新世紀-」ボーンデジタル、「裸眼3Dグラフィクス」朝倉書店、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社

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