特集はお年寄りを応援するフリーペーパーです。長野県松本市の配食業者がお年寄りの趣味や生きがいを紹介する冊子を弁当と一緒に届けています。外とのつながりが少ないお年寄りの楽しみになればとの思いが込められています。
高齢者向けの宅配弁当を手掛ける「ライフデリ松本店」。昼食・夕食合わせて1日およそ300食を作っています。
届け先の半分ほどは施設の利用者ですが、残りの多くは1人暮らしのお年寄りです。
配達を担当・河原隆さん(62):
「自分の親に配達するような気持ちでやってますね」
配達を担当・河原隆さん:
「まいどー」
女性(80代):
「いつもありがとね」
一人暮らしの女性(80)に弁当を手渡す―。
女性(80代):
「一人で暮らしているから、自分で作らなくてもこれだけの食材が入ったのを届けていただくとうれしい」
先週から弁当と一緒にある冊子を渡しています。
女性(80代):
「いろいろ載ってるのね」
「えんがわ 和話笑(わわわ)」。
掲載しているのは81歳になる女性の服作りや93歳の女性が作った凝った折り紙作品など。
お年寄りの趣味や手仕事を「元気の秘密」として紹介しています。
制作したのは店を運営する辻敬さん(60)と、店長の下田民子さん(61)です。
ライフデリ松本店・辻敬さん:
「高齢者の方って、自分が楽しんでいることがあるんですけど、横のつながりがないんです」
ライフデリ松本店・下田民子さん:
「こういう小冊子(『えんがわ』)があると、楽しみも共有できたり励みになったりすると思う」
実は2人には「別の顔」があります。
中信地区や愛知県で活動する音楽ユニット「雅音人(ガネット)」。
下田さんがボーカルで辻さんがギター。
音楽活動の傍ら、制作会社も経営してきましたが、業界の低迷もあり別の事業を模索。
2020年、「ライフデリ松本店」のフランチャイズ運営に乗り出しました。
ライフデリ松本店・辻敬さん:
「これからの時代、高齢者の一人暮らしが多いということもあり、見守り活動も兼ねた配達を」
時はコロナ禍。お年寄り世帯からの需要が高まり徐々に注文が増えました。
さらにお年寄りと触れ合う機会も増えました。
契機となったのがー。
利用者の要望で始めたマッサージ師の派遣です。
松井健さん(90)、芙紗子さん(85)夫婦。
お年寄りに寄り添う中で二人はあることを発見します。
ライフデリ松本店・辻敬さん:
「ここにね、こんな風にあったんですよ、これこれ。絵もあって俳句もあって」
それはさまざまな趣味や楽しみ。健さんは、60歳で定年退職してから30年、俳句を続けてきました。
戦争や平和を願う句―。
松井さんの句:
「反戦の 老婆にうらら 鳩餌付く」
「敗戦忌 爆死餓死なき 米寿かな」
松井健さん(90):
「松本も爆弾が落ちたことがあって、里山辺に、B29が。ものすごい爆音と光にびっくりしてね。私たちの世代の戦争の体験を絶対に戦争があっちゃいけない」
ライフデリ松本店・辻敬さん:
「身にしみますね。生きてこられた方の声っていうのは」
2人はこうした趣味や思いを発信すれば「利用者の励みにもなるのでは」と考え、「えんがわ」の制作に着手。
試しに作った「0号」と、「1号」に健さんの句を載せました。
松井健さん(90):
「最初は恥ずかしいと思いましたけど、高齢者や若い人に元気を与える結果が出ればうれしいです」
妻・芙紗子さん(85):
「ありがたいと思っています。日の目を見るってことがいいんじゃないですかね」
「えんがわ」にはお年寄りの何気ない日常もー。
第1号に掲載した、丸い石を積み重ねた、まるでアート作品のような写真。下田さんが、90歳になる女性の家の庭先で見つけたもので聞けば「亡き夫が集めていた石を並べて楽しんでいる」とのこと。
ライフデリ松本店・下田民子さん:
「なんて粋な楽しみ方だろうと、胸がキュンとしたんです。それぞれの人生が芸術だなって、そういう気持ちがしたんです」
利用者の励みになればと、「えんがわ」には店のシニアスタッフにも登場してもらいました。
田中勉さんは77歳。定年退職後、東京から松本に移住しゆっくりしようと思っていましたが、4年前から店で働き始め、生活に張りが出たと言います。
パート従業員・田中勉さん(77):
「お弁当は見た目でおいしそうだということを感じ取る。そういう面では盛り付けは丁寧に、相手に気持ちを込めて。今の僕にとっては天性の仕事だと思って、やりがいがあると」
おかずは石川県の工場から送られてきますが、店舗で一部を「きざみ食」に加工。
注文に応じて苦手な食べ物を除いたり、ご飯の量も10g単位で変えたりしています。
スタッフ27人のうち、8人が田中さんのようなシニア世代です。
パート従業員・田中勉さん(77):
「私も高齢者だからその人たちの気持ちもわかる。おうちでおいしいものを食べたいと待っているし、おいしいなと思って食べていただきたいなと」
「えんがわ」の最後のページは辻さんと下田さんらしい仕掛けがー。
QRコードを読み取ると、2人のユニット「雅楽人」の曲が聞くことができます。
♪Smile Smile(雅楽人)
「スマイル スマイル 笑いましょう ほほえみは 宝物 どんな悲しみも 苦しみも 塗りかえて 何よりの贈り物 そうだよ大丈夫 その思い風に預けて」
出会ったお年寄りたちを思い浮かべた、いわばテーマソングです。
「えんがわ・第1号」は700部制作。
文化芸術活動を支援する「信州アーツカウンシル」の助成対象となっています。
一人暮らし・配食を利用・成田進さん(74):
「この人、気が合いそうだな、昆虫(好き)で。僕は散歩のときに花見たり、魚見たり、鳥見たり」
ライフデリ松本店・辻敬さん:
「いいですね。この方もまさにその通り」
一人暮らし・配食を利用・成田進さん(74):
「皆さん、いろんなことやられているんですね」
ライフデリ松本店・下田民子さん:
「頑張ってらっしゃる方いるんだなっていい感想、やってよかったなと」
超高齢化社会を明るく迎えたい…。
弁当と一緒に届けるのは、お年寄りたちの生き生きとした暮らしぶりです。
ライフデリ松本店・辻敬さん:
「みんなが希望を持って80でも90でも夢を持って過していけるよう、小さなお手伝いですけど、そういう形を目指していきたいなと」