PUBのトイレにも“小さなフットボール”が!短い滞在でも堪能できる世界一の蹴球タウン「ロンドン」を探訪【WSD編集長コラム】

週末のプレミアリーグに合わせて昨年11月23日に渡英し、28日には帰国の途につくという弾丸取材を決行。実質4日にも満たない短い滞在のなかでも痛感したのは、ロンドンとフットボールの強い結びつきだ。

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ロンドンのヒースロー空港に着いたのは、11月23日の18時半頃だった。

ロシア上空を飛行できない現在は、直行便でも往路は14~15時間ほどのフライトとかなりの長旅だ。しかも今回、運が悪かった。搭乗したあとに機材トラブルが発覚したとかで離陸しないまま機内待機を命じられ、羽田空港を飛び立ったのは結局、予定時刻の3時間後。当然ながらそのぶん到着は遅れ、15時半に着くはずだったロンドンは、すっかり薄暗くなっていた。

今回立てたプランは木曜に現地入りし、月曜午前にはロンドンを発つ文字通りの強行軍。飛行機が遅れたことで、ただでさえ短い滞在時間はさらに減り、計算すると87時間に……。実質4日もない。事前に入れていた取材予定――チェルシーの練習場であるコブハムでの前日監督会見(金曜)、ブレントフォード対アーセナル戦(土曜)、トッテナム対アストン・ビラ戦(日曜)以外の時間を、いかに有効活用できるかがより重要になってくる。フットボールのスポットをどれだけ回れるか。改めて計画を立てる必要があるだろうなと、空港から向かうアンダーグラウンド(地下鉄)の車内で頭を巡らせた。

今回の取材で拠点に選んだのは、西に位置するヒースロー空港からのアクセスがいいうえに、ヴィクトリア駅や『ハリー・ポッター』で有名なキングスクロス駅など中心部にも出やすいウェストロンドンのチェルシー地区。ホテルの最寄り駅であるアールズ・コートに着いたのは20時過ぎで、チェックイン後になんとか駅近くのパブに滑り込む。そこでいただいたフィッシュ&チップスが、ロンドン最初の食事だった。

衣はサクッとしていて中の鱈はふわふわ。白身魚のほど良い甘味が感じられる。ビネガーをかけて“味変”もしっかり楽しみつつビールで流し込むと、ロンドンに来たという実感が急に湧いてきた。悪くない。

ロンドン郊外のコブハムにあるチェルシーの練習場に向かう2日目は、ワールドサッカーダイジェストの連載『PUBトーク』でお馴染みのスティーブとヴィクトリア駅で11時に待ち合わせ。個人的に気に入ったのが、腹ごしらえするために入った駅構内のパブ『The Sports Bar in Victoria』のトイレだ。

おそらく男性側限定だろう。小便器の中央にサッカーゴールが置かれているのだ。そこに込められているのは、「しっかり決めてくださいね」という店側からのメッセージだろう。枠外は許されない。

こうした“小さなフットボール”が至る所に散りばめられ、息づいているのがロンドンだ。訪れた際には、隠れミッキーならぬ隠れフットボールを、自分なりに探してみるのも一興だろう。

限られた時間のなかで、ロンドンという世界屈指のフットボールシティをどう堪能するか。

真っ先に思い浮かんだのが、スタジアム巡りだ。外観だけでも見る価値はあるだろう。しかも好きな時間に行って、戻って来られる。どれだけ回れるかわからないが、思い立ったが吉日。チェルシーのスタンフォード・ブリッジが近くにあるのは把握していたので、金曜早朝、目覚めてすぐにグーグルマップで探ってみると、思っていた以上に近く徒歩圏内だと判明。ロンドンらしく小雨が降っていたが、朝8時にカメラ片手に飛び出した。

高級住宅地を抜けて15分ほど、突如目の前に現われたスタジアムは、やはり近くで見ると壮大で迫力がある。平日の早朝だったこともあってひと気はなく、周りは思いのほか静かだった。

思わず胸が高鳴ったのは、スタジアム周辺の一角に、ヴィアッリやドログバ、ランパード、ゾーラ、テリー、デサイー、チェフらレジェンドの写真が並べられた50メートルほどの豪勢な通りを発見したからだ。誰もいないので写真も取り放題。贅沢な時間だった。

翌日土曜も早朝にホテルを出発した。目指したのはフルアムのクレイブン・コテージだ。アールズ・コート駅から地下鉄でわずか9分のパットニー・ブリッジ駅で下車し、テムズ川沿いを歩くこと10分、スタンフォード・ブリッジとはまた違う趣のスタジアムが遠くに見えはじめる。

そこからさらに10分ほど進み、緑豊かなビショップパークを突っ切ると到着。レンガ造りのゲートは古色蒼然とした雰囲気で、歴史の重みと伝統を感じさせた。

それにしても、便利な世の中になった。スマホを駆使すれば、迷うことなく目的地まで連れて行ってくれる。その意味でも必須と言えるのが、グローバルWi-Fiだ。出国前に空港でレンタルできるので、事前予約することをおすすめする。

プランや契約する会社次第だが、1日あたりの使用料金は旅行先が英国なら2000円前後が相場。安くはない。ただ、スマホを必要なタイミングで使えるかどうかは死活問題だけに、持ち物リストに書き加えておくべきだ。

取材の間隙を縫ってもうひとつ訪れたスタジアムが、アーセナルのエミレーツ。ぎりぎりツアーに参加できる時間帯だったため、オンラインでチケットを購入。16時のラストエントリーにどうにか滑り込んだ。料金は30ポンド(約5400円)。日本語の音声ガイドもあり、アーセナル・サポーターは十分に満足できるだろう。

土日の取材で訪れたブレントフォードとトッテナムのスタジアムもカウントすれば、今回、巡ることができたのは計5会場。滞在期間を考えれば、上出来も上出来だろう。

最後に物価についても触れておきたい。円安の影響もあり、旅行者にとっては決して快適とは言えない物価水準になっている。感覚としては、すべてが日本の2~3倍。500ミリリットルの水は250円、マクドナルドのセットは2000円ほどだった。

ホテルもロンドンの比較的中心部に近いエリアなら、1泊2万円は下らないだろう。滞在したアールズ・コートのホテルは約2万7000円だった。それでもビジネスホテルのような狭さで、床にスーツケースを広げると足場がなくなり、過ごしにくかった。冷蔵庫などは当然ない。ただそれでも、また来たいと思わせる魅力がある。

改めて痛感したのは、ロンドンという街とフットボールの強い結びつきだ。週末のマッチデーは空気が、音が、景色が変わる。スタジアム周辺には露店が並び、フットボールモード全開だ。パブでは愛するクラブのユニホームを纏ったサポーターたちが、週に一度訪れる非日常を思い思いに楽しんでいる。そしてどこからともなく、チャントが始まるのだ。

短い滞在でも、ロンドンの醍醐味は存分に味わえた。

取材・文●加藤紀幸(ワールドサッカーダイジェスト編集長)

※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年2月1日号より転載

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