「反抗期がない子=いい子ではない」「自立とは、自分1人だけの力で生きることではない」誤解だらけの子育ての著者、小児脳科学者・成田奈緒子先生に聞く

引用元:mapo/gettyimages

小児脳科学者 成田奈緒子先生は、子育て支援事業「子育て科学アクシス」で多くの親子の相談を受けています。その中で気になっているのが、ママ・パパがSNSなどの誤った情報をうのみにしたり、情報に振り回されながら子育てをするケースが増えていることだと言います。
また注意が必要な親子関係も増えているそう。成田先生に、誤った子育てが子どもに与える影響について聞きました。

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ママ・パパが受験情報に振り回されながら育てて、不登校になる子も

なかにはママ・パパは頑張って子育てをしているのに悪循環に陥っているケースがあるそうです。原因の一つとして考えられるのが、子育てに関する情報が多すぎることです。

――情報過多によって、実際には子育てにどのような影響が出ているのでしょうか。

成田先生(以下敬称略) SNSは、いろいろな情報が検索できるのでとても便利です。しかしママ・パパが、正しく情報を見る目を持っていないと、誤った情報をうのみにしたり、自分が知りたい偏った情報ばかり集めて、偏った考え方で子育てをしてしまうデメリットもあります。
たとえば早期教育に力を入れていたり、幼稚園・小学校受験をめざすような教育に比重をおいているママ・パパの中には、SNSなどの受験情報に振り回されて子育てをした結果、小学生になってから不登校になり、私のところに相談に来る親子もいます。

――ママ・パパが教育熱心だと、どのようなことが気になりますか。

成田 幼稚園や小学校受験をめざす家庭では早いうちから塾に通い、試験に受かるような言動ができるように塾で指導されます。家庭でも、同じように教えているでしょう。しかし、それを続けていると、ママ・パパの顔色をうかがうことが普通のことになってしまって、幼児では当たり前の自己主張ができなくなってしまう傾向があります。

本当は「今日は、帽子なんてかぶりたくない!」と思っても、ママ・パパが「帽子かぶって行こう」と言うと、「ヤダ!」と言えずに「はい」と言ってしまうのです。そうした積み重ねが、脳や心の育ちに影響を与えます。
こういうタイプの子に対してママ・パパたちは「育てやすくていい子」と安心しているかもしれません。でもそれは勘違いというものです。もっと、子どもの本当の気持ちに目を向けなくてはいけません。

また子どもに必要な1日の標準睡眠時間の目安は、1歳半は13時間30分、3歳は12時間、5歳は11時間です。0~5歳は、十分な睡眠と早起き・早寝の習慣、規則正しく食事をとることが生きるために必要な脳の土台を作ります。

しかし近年、幼いうちから睡眠時間が少ない子が増えているように思います。もし塾、習い事などで忙しく、十分な睡眠がとれていないならば、それは子育てのしかたが誤っていると思ってください。

――早期教育や幼稚園・小学校受験をめざしていない家庭は、SNSなどの情報に振り回されないのでしょうか。

成田 「うちの子は、〇歳でおむつがはずれた」「うちの子は〇カ月で、××ができる」などの情報を見て、わが子と比べて落ち込むママ・パパもいると思います。テストの点数と同じで月齢や年齢は目につきやすいものです。しかしSNSの情報を見て、一喜一憂することはありません。SNSの情報に振り回されないでほしいと思います。

約100人の大学生に聞くと、思春期に反抗期があったのはわずか4~5人

思春期に反抗期がない子が増えていると聞きます。これはいいことなのでしょうか。悪いことだとしたら原因として考えられるのは、どのようなことなのでしょうか。

――思春期に反抗期がない子が増えているのでしょうか。

成田 毎年、大学の授業で学生に「反抗期があった人?」と聞いてるのですが、100人近い学生の中で手が上がるのは、わずか4~5人です。「親に反抗する必要性を感じたことがない」と言う学生もいます。反抗期がないのは、子どもの健やかな成長とは言えません。
これは脳の発達過程においては問題です。一般的に反抗期は、小学校高学年ぐらいから始まります。反抗期が起きるのは、脳で性ホルモンが大量に分泌されるためです。大量に分泌される性ホルモンによって、脳は攻撃的になり、感情が激しくなるのですが、これは脳の発達過程では正常なことです。

しかし先ほども話したように、幼児期に自己主張ができないような親子関係を築いたり、仲よし親子の関係を築いて反抗する機会を奪ってしまうと、反抗期がないまま成長するリスクがあります。

――仲よし親子はいけないことなのでしょうか。

成田 仲よし親子と言うと「親子で本音で話し合い、理解し合っている」というイメージがあるかもしれませんが、実は親子で依存し合っているケースが多いです。
大学生で友だちと洋服を買いに行って、「どっちの色がいいかな?」とスマホで写真を撮って、ママに聞く子がいました。友だちが「ピンクがいいよ!」と言っても、その子はママの意見に従って紺色を選んだそうです。
友だちの驚く反応を見て、初めて「あれ!? 私っておかしいのかな?」と思い、私のところに相談に来ました。これは「ママ・パパの言うとおりにしていれば問題がない」と思って育ってきた子の一例です。

自立とは、自分1人だけの力で生きることではない!

子育ての最終目標は自立です。しかし、なかには誤った解釈をして自立を促すママ・パパもいます。

――親子で依存し合わないためには、自立させることを意識して、子育てをするといいのでしょうか。

成田 なかには自立の考え方を誤ってとらえているママ・パパもいます。たとえば、私のところに相談に来るママ・パパに「子どもを自立させるとは、どういうことだと思いますか?」と聞くと、「自分1人の力で生きていけるようになること」と答えます。「そのために必要なことは何だと思いますか?」と聞くと「経済力」と言います。

しかし経済力をつけることを目標にして子育てをすると、どこかにひずみが生まれます。ひと昔前は、いい大学を卒業して、いい会社に就職して定年まで働けば、悠々自適な生活が送れていました。でも時代は変わりました。
そのため子どもには幼いうちから、人間は自分1人では生きられないということを、まずは教えてあげてほしいと思います。お金があっても、自分1人では生きられないのです。

たとえばお弁当を買ったとき、「お金があるからお弁当が買えるんだよ。お金がなかったら買えないね! お金って大切だね」と教えるのではなく、「このお弁当はだれが作ってくれているのかな? ミニトマトは、農家の人が作ってくれているんだよ。卵焼きは、にわとりを育てている人がいるから食べられるね」と教えてあげてほしいと思います。

社会はそうして回っているのです。自分1人では生きられないということを、幼児期から教えてほしいと思います。

お話・監修/成田奈緒子先生

取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

成田先生は「子どもはママ・パパを見て育ちます。なかには、ママ・パパが望むような子どもになろうとして頑張る傾向がある子もいます。そのためママ・パパが誤った考え方で子育てをしないことが大切」と言います。

●記事の内容は2024年2月の情報であり、現在と異なる場合があります。

『誤解だらけの子育て』

発達、生活習慣、コミュニケーションなどをテーマに、ママ・パパが子育てで誤解しやすい45の項目を紹介。それらの誤解を解けば、子育てはもっとうまくいく!成田奈緒子著/1056円(扶桑社)

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