元気届け 大輪エール 富山のホテル、避難者に花火

打ち上げ花火を眺める珠洲市の2次避難者=富山市内のホテル

  ●歓声「勇気付けられた」

 能登半島地震で珠洲市の被災者が2次避難している富山市のホテルテトラリゾート立山国際は29日、近くの立山山麓スキー場極楽坂エリアで打ち上げ花火を行った。寄り添う思いと元気を被災者に届けようと、全国の取引先などから協賛金を募って実現し、約450発が雪の降る冬空を彩った。「勇気付けられた」。被災者は復興と新生活に向け、エールが込められた光の大輪を胸に刻んだ。

 花火は午後8時、もやがかかる中で始まった。4号玉や人の笑顔のように見える「スマイル」など大小さまざまな花火が打ち上がり、華々しいスターマインがフィナーレを飾った。被災者はホテルの玄関やロビーから眺め、視界が悪くとも次々と夜空にきらめく光と迫力ある音に「きれい」「すごい」と歓声を上げた。

 自宅が倒壊した泉滋子さん(72)=珠洲市宝立町=は「花火も一生懸命私たちに見てもらおうと雪の中で輝いていた」と拍手喝采。3月中にみなし仮設住宅に移る予定で「銀行の通帳も車の免許証も再発行した。次は車も買う。新生活を始める力をもらった」と初めての冬の花火に感謝した。

 家族5人でホテルに避難し、平日は地元に戻って仕事をしている石田武志さん(68)=同市大谷町=は花火を見るため、今週は1日早くホテルに戻ってきた。胸が高まっていたそうで「全国からこんなに応援されうれしかった。また頑張らんなん」と笑顔を見せた。

 花火は同ホテルの運営会社で、北海道函館市に本社を置く「ホテルテトラ」が「全国からの応援の声を形にしたい」と企画。北海道から九州まで全国26カ所で展開するホテルの取引先などに協賛金を募り、約220社が思いに賛同した。

  ●応援動画も紹介

 打ち上げ前には宴会場で近くの上滝保育園の園児29人が歌と踊りを披露。被災者とペアを組んで踊る企画もあり、会場からは「かわいや」との声が漏れ、和やかな雰囲気が漂った。

 立山国際は1月20日に2次避難先として珠洲の住民を初めて受け入れてから、少しでも快適に過ごしてもらおうと被災者の声を聞き、細やかなサービスに努めてきた。被災者からは「上げ膳据え膳、風呂付き。人も優しく、このホテルで良かった」との声も上がる。「いずれ能登に戻られるが、別れるのは寂しい」と話す従業員もおり、震災をきっかけとした出会いだったものの、ホテル側と被災者は絆を深めてきた。

  ●人と人、つながり大切に/ホテルテトラ・三浦社長

 花火を企画したホテルテトラの三浦裕太社長(36)は29日、被災者を前にテトラグループの社員約30人で考えた手紙を読み、「春が訪れるように笑顔になれる日が来ると信じている」と力を込めた。被災者に声を掛け、会社を挙げて寄り添う考えを示した。

 同社は2018年、北海道胆振東部地震の際も道内のホテルで観光客や地域住民を受け入れた。三浦社長は「人と人とのつながりや、頼り頼られ人の役に立つこと。その力を信じている」と語った。

 震災から2カ月。避難者は珠洲の自宅に戻ったり、親類方に身を寄せたりして一時の120人から100人程度となった。ただ、いまだ仮設住宅やみなし仮設など次の住まいの見通しが立たない人もいる。受け入れ期限は3月末~4月上・中旬でホテルと関連機関で調整が進められており、三浦社長は「受け入れの延長も前向きに考え、できる限り協力したい」と話した。

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