桃の節句 長崎の定番菓子「桃カステラ」に異国文化の歴史 食感や香り、見た目 店ごとに違いも

長崎のひな祭りの定番「桃カステラ」。3日の桃の節句を前に、繁忙期を迎え、職人らが製造に励んでいる=長崎市丸山町、大竹堂

 3月3日は桃の節句。年中行事の一つで、女の子の健やかな成長を願い、ひな人形を飾ったり、ひなあられやひし餅、ちらしずしを食べたりするのが、全国的なひな祭りの風習といわれるが、長崎県の定番といえば「桃カステラ」だ。知っているようで意外と知られていない歴史をたどった。
 桃カステラは、桃を模した砂糖細工がカステラ生地にのった伝統菓子。職人が桃の形をした枠型で生地を焼き、水あめや砂糖を煮詰めたフォンダン(すり蜜)に生地の表面を浸す。数分もしないうちに空気に触れた部分が白く色付き、うっすらとした桃色の果実が現れる。食紅で色付けし、桃の葉や茎を模した練り切りを付けて完成する。
 県菓子工業組合が2008年に団体商標登録した。同組合は5年に1回、品質維持を目的にした審査会を開催。基本配合や材料に関する勉強会も続けている。
 長崎市丸山町の和菓子店「大竹堂」3代目、大平和広さん(73)によると、現在、組合加盟の菓子店約60店舗が製造。季節を問わずに販売する店もあれば、この時期のみという店もある。昔ながらの桃カステラといえば、どっしりとした重みがある生地が特徴だが、最近はふわっとした軽い生地で作る店舗も多い。
 そもそも長崎は、江戸時代に貿易船から多くの砂糖がもたらされた歴史があり、料理や菓子にはふんだんに砂糖が用いられてきた。長崎といえばカステラが有名だが、佐賀県の小城羊羹(ようかん)や福岡県の千鳥饅頭(まんじゅう)など、砂糖文化は長崎街道を通じて伝わり、同街道は「シュガーロード」と呼ばれる。
 同市長崎学研究所の元所長、土肥原弘久さんによると、江戸時代から中国文化の影響を受けてきた長崎では、中国で不老長寿の果実として尊ばれている桃を「縁起がよいもの」として親しんできた。小豆餡(あん)を包み、桃をかたどった縁起菓子「桃饅頭」は祝い事や晴れの日の贈り物として古くからなじみの品だった。
 桃饅頭と長崎カステラが結び付いたとされる桃カステラ。登場した時期は定かではないが、明治時代か大正時代からあったという菓子店もある。土肥原さんは桃カステラを「長崎の桃の文化と大陸文化、さらに南蛮のカステラが融合したお菓子」と解説する。
 桃饅頭と同じく、桃の節句だけでなく、お宮参りや成人式、結婚式でも広く親しまれている桃カステラ。「見てきれい、食べておいしい長崎銘菓。生地のしっとり感や卵の香り、見た目は店によって違うので、複数の店舗で購入して、家族や友人と食べ比べを楽しんでほしい」。職人歴55年の大平さんが、長崎ならではの味わい方を教えてくれた。

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