【震災・原発事故13年】双葉の記憶 形に残す 浜野行政区 津波耐えた建物保存へ

展覧会で展示する写真やジオラマを前に、古里の記憶を後世につなぐ決意を新たにする高倉さん

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から間もなく13年となる。津波で甚大な被害を受けた福島県双葉町の浜野行政区で、未曽有の災害の記憶を後世につなぐ新たな取り組みが動き出す。行政区内に含まれる中野地区の建物2軒が保存される方向で検討が進んでいる。津波被害の爪痕が刻まれる貴重な建物を残し、複合災害の教訓を次世代に伝承する。行政区の住民は節目に合わせて展覧会を初めて企画した。写真や模型を並べ、古里の姿を未来に伝える。

 保存が検討されている2軒は、国や県が整備する復興祈念公園内にある。いずれも2階建ての建物。津波で1階部分が大きく損傷し、2階部分にも被害の痕跡が残るが、崩れずに耐えた。県などが建物の住民の心情に配慮しながら慎重に話し合いを重ね、有効的な活用策を探る。

 2軒の近くには東日本大震災・原子力災害伝承館が建ち、北東に約2.5キロ離れた場所には浪江町の震災遺構「請戸小」がある。双葉町などからは震災遺構として建物の保存を求める声が上がっていた。復興祈念公園は2025(令和7)年度に工事が完了する計画のため、今後、保存に向けた詳細な検討が進んでいくとみられる。県などは建物を含む周辺を、震災と原発事故の記憶や津波で家族らを失った遺族の思いをたどる場所にしたい考えだ。

 中野地区を含む浜野行政区は震災の津波で14人の命が失われた。約50世帯ほぼ全ての住宅が流失。東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示が2020年3月に解除されたが、津波浸水区域のため、現在も居住できる環境ではない。住民のほとんどが町外に避難している。

▪️住民が9、10日に展覧会

 双葉町浜野行政区の住民が企画している展覧会は、行政区内にある浅野撚糸双葉事業所で催す。復興の象徴的な施設だ。9、10の両日、町の被害状況や復興の歩みが伝わる写真を展示し、大津波が襲った古里の記憶を刻む。

 展覧会を発案したのは行政区長の高倉伊助さん(68)。「住民が住んでいた証しを発信したい」と準備に励む。「時間の経過とともに震災が忘れ去られてしまう」。高倉さんは未曽有の災害を経験した地区の住民として被害を次世代につなぐ必要性を強く実感していた。震災発生前の古里の様子や復興の状況を伝えるには、一目で分かる「写真」が効果的と考えた。

 ただ、思い出の品々は津波で流されてしまっていた。町や住民らの協力を得て収集に奔走した。住宅が津波で流失した町の様子、行政区内にある八幡神社でにぎわう住民を収めた写真など約300枚が集まった。5冊ほどの冊子にまとめて展示する予定だ。

 「災害に一番向き合ってもらえる日」として、開催日は3月11日の近くにした。双葉のジオラマを作って街並みを記録する活動に取り組む関西学院大の学生も高倉さんの熱意に賛同。今の行政区の様子を再現したジオラマを会場に置く。

 高倉さんは「幅広い世代が双葉の姿を脳裏に焼き付け、防災を考えるきっかけにしてほしい」と望む。展覧会の時間は午前10時から午後5時までの予定。

© 株式会社福島民報社