あの洋菓子ブランドのパティシエが実は 五輪の表彰台を狙う新鋭、Wチーズケーキの品質と両立

洋菓子ブランド「アンリ・シャルパンティエ」でパティシエとして働く松林佑倭選手(シュゼット・ホールディングス提供)

 冬場はスピードスケート・ショートトラックの選手。シーズンオフは有名洋菓子ブランドのパティシエ。そんな「二刀流」の青年が兵庫県西宮市にいる。今季はスケートの世界大会に初めて挑み、銅メダル2個を獲得した。「いい結果は出たけどトップとの実力差も感じた。もっと力をつけたい」。ケーキ作りが上達するための思考法はスケートにも役立っているといい、将来は五輪の表彰台を狙う。(山岸洋介)

 神戸市灘区出身の松林佑倭(ゆい)選手(21)。スケートと出合ったのは体験会に参加した5歳の時。サッカーや水泳もやってみたが、母に「また行きたい」と言ったのはスケートだけだった。すぐに地元チームに誘われ、競技を始めた。

 高校卒業後の2021年春、洋菓子ブランド「アンリ・シャルパンティエ」を展開するシュゼット・ホールディングス(西宮市)にアルバイトで入社。工場でケーキを作り、勤務後に練習する生活が始まった。

 昨年4月には正社員に登用され、より競技に打ち込める環境が整った。現在は同社の氷上競技部に所属し、数々のトップ選手を育てた名将・杉尾憲一コーチ(61)の指導を受ける。

 同10月にカナダ・モントリオールであったワールドカップ(W杯)では男子5000メートルリレーのアンカーを託され、銅メダル獲得に貢献。翌11月にカナダ・ラバルで開かれた四大陸選手権でも男子1000メートルの3位に入った。

 ショートトラックは短いコースを集団で滑る選手たちが進路を奪い合い、目まぐるしく順位が入れ替わる。松林選手の武器は、勝負どころでわずかな隙間を突き、一気に抜き去る力だ。県スケート連盟の鈴木信子副理事長(79)は「独特の勘と天性の身のこなし。追い抜く技術は世界レベル」と評価し、26年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪での活躍も「十分期待できる」と話す。

 一方のケーキ作りはアンリで働くまで全く経験がなかった。最初は道具の握り方も分からず、鍋を焦がしてしまうこともあったが、持ち前の真面目さで努力を重ね、仲間から頼りにされる存在に成長した。

 人気商品「Wチーズケーキ」を担当し、多い時は1日500個を作る。「品質の良い商品をいかに効率よく作るか。絶えず考えることが、スケートの練習にも生きている」という。

 7~3月には仕事を離れ、競技に専念する。クリスマスやバレンタインデーで会社は繁忙期だが、同僚たちは「マツ」と慕う松林選手の活躍を楽しみに仕事に励んできた。松林選手は「競技に集中できる環境に感謝している。応援してくれる仲間の期待に応えたい」とさらなる高みを目指している。

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