先生「テスト返します」 生徒「えー」…そんな光景はもう見られない? 全国で進むデジタル端末テスト、性急なデジタル化に教育現場からは疑問の声も

デジタル端末を使って行われた帖佐中学校の定期テスト=姶良市西餅田(同校提供)

 国のGIGAスクール構想で小中学生へデジタル端末が配備され、今後の活用策が課題となっている。注目されているのが、紙に代わって端末でテストを行う「CBT」だ。文部科学省は2025年度の全国学力学習状況調査の中学理科をCBTで行う。鹿児島県教育委員会は、先駆ける形で24年度から学習定着度調査への導入を目指している。

 真剣な表情で問題を解く生徒たち、その手元のデジタル端末が目を引く。2月中旬、姶良市の帖佐中学校であった定期テストでは、英語や理科など4教科がCBTで行われた。22年度に保健体育、美術で導入。本年度からは英語と理科、家庭科でも実施している。

 英語のテストでは、紙と端末を併用。記述問題以外は端末で回答を入力させた。コンピューターによる自動採点なのでミスがなく、作業時間は大幅に短縮した。池田伸吾教諭(42)は「2時間目のテスト結果を、4時間目には生徒に返せるようになった」と話す。

 集計やグラフ化も容易になり、生徒がつまずきやすい問題の傾向が一目で分かるという。生徒も記憶が新しいうちに、間違った問題の解説を見ることができる。「みんなの前では質問する勇気がなかったけど、個別に解説が見られるのでいい」などと好評だ。

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 全国では、埼玉県が23年度の学力・学習状況調査で一部に導入。24年度から全面実施を目指しているが、大半の自治体はこれからだ。文科省が昨年公表した調査結果では「授業中の小テストに取り入れている」が34.3%、定期テストでは8.6%にとどまる。

 鹿児島県は来年度、小学5年と中学1、2年を対象にした学習定着度調査の全教科でCBT導入を計画。当初予算案に「新時代の『確かな学力』育成推進事業」として、2786万円を計上した。

 県教委義務教育課の水島淳課長は、採点や配布作業といった教員の負担軽減に加え、「動画を使うなど多様な出題ができる上、データの収集・分析で指導改善にもつながる」と利点を挙げる。

 今年1月の調査では、誤って問題や解答を事前に配布するトラブルが起きた。県教委はCBT導入によって、紙で保管するリスクが軽減し、印刷や輸送のコストも減らせると強調する。

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 現場の教員からは「採点や問題用紙を数える作業がなくなるのは助かる」と歓迎する声が上がる一方、性急なデジタル化への懸念や調査の在り方自体に懐疑的な声も根強い。

 鹿児島市内の30代小学校教諭は「デジタル機器ばかり使うことで児童に影響はないのか」と案じる。40代の中学校教諭は「そもそも毎年、全学校で実施することが、自治体や学校間の競争を生んでいないか。データを取るのが目的なら抽出でもいいのでは」と疑問符を付けた。

■CBT Computer Based Testingの略。従来の紙を使ったテストに対し、コンピューターを用いたテストを意味する。PISA(OECDの学習到達度調査)に使われるなど、世界で導入する動きが広がっている。国内では漢字能力検定などの検定試験や企業の採用試験に採用されている。

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