和倉の老舗美容室が廃業 創業70年「守沢美容室」涙で別れ

傾いた建物の解体を進める重機=1日、七尾市和倉温泉

 建物損壊と断水で旅館の休業が続く七尾市和倉温泉。能登半島地震から2カ月となった1日、いつもの駐車場が使えず、普段は歩かない温泉街を歩いていると、解体中のビルをスマホで撮影する女性の姿があった。声を掛けると、このビルで美容室を営んでいた守沢悦子さん(65)だった。建物の修復が難しく、廃業を決断したといい、「思い出が詰まった建物も簡単に粉々になるんやね」と涙声で言葉を絞り出した。(七尾支社長・安田佳史)

  ●仲居や芸者が利用

 守沢美容室は昭和20年代半ばに和倉温泉で営業を始めた。和倉で最も歴史のある創業70年以上の美容店で、総湯近くの鉄骨3階建てのビルは住居を兼ねた。亡き義父が理髪店、義母の是枝(よしえ)さん(92)と守沢さんが美容店を営み、多くの旅館の仲居や芸者が利用した。近年は守沢さんが切り盛りしてきた。

 2月21日から業者が内部の解体に取り掛かり、1日は重機がバリバリと音を立て、煙を巻き上げながら壁などを崩していった。解体される建物を見詰めながら「もう少し続けたかったんだけどね」と話す守沢さん。無念さが伝わり、やるせない気持ちが募った。

 地震発生時は家族4人で建物内にいた。大きな揺れを感じて着の身着のまま高台に避難。建物は亀裂が入って大きく傾き、守沢さんは七尾市田鶴浜地区にある実家に身を寄せ、2月からは和倉温泉の空き店舗で暮らしている。

 是枝さんは県美容業環境衛生同業組合の理事長を務め、加賀屋の小田禎彦会長の母で、1990年に亡くなった元女将(おかみ)・小田孝(たか)さんの専属美容師でもあったという。長い間、湯のまちの変遷を見守りながら旅館関係者や住民に愛されてきたのだろう。

 震災後、和倉温泉の店舗が取り壊されるのは初めてとなる。常連客から「復活させてほしい」「残念や」と惜しむ声が届く中、守沢さんは「店を再建する元気も体力もない。皆さんのおかげで頑張ってこられた」と感謝を口にした。

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