旧JR三江線「鉄道資産」として高まる価値 施設の撤去進む一方で…新たな活用の動きも

島根県と広島県を結んだJR三江線の廃止から、間もなく6年になります。
鉄道施設の撤去が少しずつ進む一方で、地元のNPO法人が廃線で明かりが消えた線路に新たな光をあてようとしています。

島根県邑南町の旧JR三江線口羽駅。

「信号機の点灯試験を行います。」
「はい、これより信号の点灯試験。」
「はい、信号担当、赤(停止)から黄色(注意)の方へお願いします。」
「はい4R、Y(黄色)現示します。」

NPO法人江の川鐡道のスタッフが無線で指示を出すと、信号が切り替わるとともに自動的に線路の分岐器が作動しました。

「定位オーライ。定位良し。密着良し!」

NPO法人江の川鐡道 佐々木創さん
「6年ぶりに蘇ったっていうことを考えると、ちょっと感慨深いです。」

今から約6年前、2018年3月31日で廃止されたJR三江線。
この6年間で施設の撤去が少しずつ進んでいます。

このうち、路線のほぼ中央に当たる邑智郡美郷町内では、コンクリート製の橋が取り払われ、築堤の一部が削り取られています。

広島県内には長い鉄橋がありましたが、こちらも数年かけて解体されました。

一方、いくつかの駅は保存されています。
路線の南寄りの邑智郡邑南町では、踏切の警報機や遮断機も含めて駅が丸ごと鉄道公園として残され、近隣住民らがボランティアで線路の雑草を刈り取り、江の川鐡道とともにトロッコ列車を走らせています。

信号が復活した口羽駅も、鉄道公園として保存されたのが功を奏しました。
JR当時の信号システムはCTCという遠隔操作方式でしたが、今回、口羽駅単独で操作できるよう改修し、長く消えていた信号が復活。
この日は本物の鉄道と同様に信号に従って、トロッコ車両を運行させるためモーターカーを使って実地訓練をしていました。

NPO法人江の川鐡道 森田一平さん
「実際にポイントも切り替わって、それをみんなで体験をしてもらうということで、昔の駅の信号とポイントの関係とかですね、そういったものも理解してもらうことが可能になります。」

今年5月頃、信号システム体験プランなどが計画されているほか、信号に従う、より本格的な鉄道運行の実現を目指すとのこと。
システム復旧を支援した岡山県内の保存鉄道のスタッフは、三江線が持つ鉄道資産としての素材の良さを指摘します。

片上鉄道 森岡誠治さん
「信号は極力、元のそのままを使っている。三江線は鉄橋があって駅があってっていう、これ、今でもちゃんと鉄道ですよね。この資産を、みんなで楽しみながら次の世代につなげていけたら良いなと本当に思います。」

片上鉄道は廃線に車両を走らせる保存鉄道の先駆け的な存在ですが、運行区間は駅構内の数百メートルだけ。
一方で、鉄橋やトンネルなどが残っている三江線は、保存鉄道としての今後の伸びしろが大きいと見ています。

そこで、トロッコのリピーターにも新たな楽しみを提供できるようにと、江の川鐡道では「天空の駅」として有名だった宇都井駅の、江津側のこれまで手付かずだったトンネルにも、トロッコの運転区間を延長することを考えています。

NPO法人江の川鐡道 森田一平さん
「影絵とか三江線の歴史などを紹介する動画が見れるような仕掛けをして、こっち側のこのトンネルも楽しんで頂けるように今年は準備を進めていきたいと思っています。」

以前、トロッコ車両の屋根に映写機を載せ、トンネルの壁に三江線の歴史などをプロジェクションマッピングで映し出したり、影絵のオブジェを置いたりしたことがありますが、これらを発展させたものになりそうです。
さらに。

NPO法人江の川鐡道 森田一平さん
「この宇都井駅、かなり特殊な構造だということがだんだん文献上も分かって来まして。建設から50年になります来年以降、この宇都井駅を土木遺産に指定してもらうように動いていきたい」

現在、島根県技術士会に協力してもらいながら、宇都井駅の温度による伸び縮みを計測しています。
昭和の戦前から戦後、高度成長期と、ほぼ半世紀にわたって建設されて来た三江線には、それぞれの時代の土木技術を今に伝える貴重な施設が残っている可能性があり、現在、研究が進んでいるといいます。

さらに、さらに!

NPO法人江の川鐡道 森田一平さん
「まだ資金の目処は立ってないんですけども、三江線をメタバースの空間として蘇らせたいという希望を持っておりまして、そのための測量調査などを始めています。」

まだ試作中ですが、インターネット上の仮想空間に三江線資料館を作る計画も進行中!
誰もが三江線の様々なデータを閲覧できたり、疑似体験できたりといったものになりそうです。

NPO法人江の川鐡道 森田一平さん
「三江線そのものが地域の歴史と共にある。その記憶を様々な形でたどることで、鉄道が走っていた時とはまた違う人のつながりをもたらしてくれるものだなあと感じています。」

JRの路線としては廃止された三江線。
様々な人の力により、この6年間で少しずつ新しい生命を与えられ、JR時代とは少し形を変えながら生き続けています。

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