「理解に苦しむ」「選手時代の面影はない」 “奥の手”を発動したシャビ監督をバルサ番記者が指弾「もっと特別扱いされるのを望んでいたのだろう」【現地発コラム】

シャビが正真正銘のバルセロニスタであり、パスサッカーを極めタイトルを獲得することで世界の頂点に立ったチームの中心選手にしてキャプテンであり、ウェンブリーのような聖地の主人公であることに異論を唱える者はいない。

現役時代のポジションはセントラルMFではなく、インサイドハーフで、バルセロナとスペイン代表の攻撃を操った。また、リオネル・メッシの周辺やジョゼ・モウリーニョ監督時代のレアル・マドリーとの間で騒動が生じたときには、仲裁役を買って出るだけのパーソナリティも持ち合わせていた。ジローナの監督、ミチェルは、「シャビはバルサそのもの」と評している。

したがっ て、ジョアン・ラポルタ会長が監督としての経験がアル・サッドに限定されていたことを懸念していたにせよ、解任したロナルド・クーマンの後任として招聘したことは驚きではない。シャビほどバルサを知り尽くした候補者は他にいなかった。

中間層が少ないチームの歪な編成やクラブの危機的な財政状況が助けになることはなかったが、だからこそファンは、火中の栗を拾った彼の勇気と野心に感謝した。監督交代を境に息を吹き返したバルサはチャンピオンズリーグ(CL)の出場権を獲得した。

しかしその後、シャビは最大の難問に直面した。欧州最高峰の大会に見合った競争力のあるチームを作ることだ。もっともその挑戦はあくまでサッカーの範疇であり、クラブの組織的、社会的な問題とは関係はなかった。それはシャビが現役時代にバルサ特有のエントルノと呼ばれる複雑な環境がもたらす自滅癖に対する免疫を十分に得ていたと考えられていたからでもある。

しかしその骨の髄までバルサの人間であるシャビが来年6月の契約満了を待たずに今シーズン限りで退任することを発表したことの理由を、クラブの内外、とりわけメディアからの風当たりの強さに求めている。理解に苦しむというほかない。

レアル・マドリーやジローナに完敗を喫するなど、どうしようもない状況に追い込まれていたことによる個人的な理由と言ってくれたほうがよっぽど納得がいく。シャビはおそらくもっと特別扱いされることを望んでいたのだろう。周りからのリスペクトを再三要求していたことからもそれは明らかだ。

そもそもシャビの要求を実現するのは簡単なことではない。なぜなら、前述した通り、彼の認識とは異なり、議論の発端となっているのは、サッカー的なものだからだ。試合中の采配にも改善の余地がある。

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一方で、今回の退任発表がバルサにとって最善の解決策になるとも思えない。シャビは、クラブが直面している現状に関心を示そうとしない選手たちのモチベーションを喚起しようとしても何度も失敗してきたため、最後の奥の手を発動させたのだろう。とはいえ、来シーズン、リニューアルされたカンプ・ノウに帰還する予定の選手たちが、残りのシーズン、監督が続投しないと分かっている中で、どのように対処するかは未知数だ。

ルイス・エンリケやユルゲン・クロップら過去にもシーズン途中で退任を発表した監督はいた。しかしシャビのケースは非常に特殊で型破りなものだ。ラポルタは、愛するバルサのために常に威厳を持って行動するレジェンドとしての性質を鑑みて、その方式を受け入れた。

シャビが狙ったショック療法が功を奏さず、来シーズンのCL出場権獲得が危ぶまれるような事態に陥らない限り、フロントは後任探しの時間を手に入れた。国内リーグ戦や欧州カップ戦の成績に関係なく、そのシーズン限りでの退任を発表した監督がその後、解任された前例はほとんどない。

昨シーズンのラ・リーガ優勝を経て、内容を改善することを目標に掲げて臨んだ今シーズン、皮肉にも結果がシャビの運命を決めることになった。もちろんチームの低迷は彼だけの責任ではなく、フロントの付け焼刃的な補強戦略も大いに関係している。シャビは、クラブ内での立場が弱体化する中、来シーズン以降もチームを指揮することは難しいことを察知し、フロントに先手を打つ形で退任を発表した。

周りの波にのまれ、事態を収束できずに、被害者意識を前面に押し出している監督シャビからは、選手時代の面影は見られない。モンジュイックへの一時的な移転は、バルサにとって苦難の旅になっている。

文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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