五輪2連覇キプチョゲに突然起きた“異常事態”。まさかの失速を絶対王者が告白「残念ながら悪い日だ。ただ言えるのは…」【東京マラソン】

誰しもが目を疑う絶対王者の異常事態だった。

3月3日、パリ五輪の男子マラソン最終代表選考レース「東京マラソン2024」が都内で行なわれ、2022年のオレゴン世界選手権代表の西山雄介(トヨタ自動車)が日本人トップの9位でフィニッシュするも、日本陸連が設置した「2時間5分50秒」にわずか41秒届かず、パリ切符を逃した。この結果、昨年のマラソングランドチャピオンシップ(MGC)で3位だった大迫傑(Nike)が代表ラスト1枠を射止め、熾烈な代表争いは決着した。

日本男子の熾烈なパリ五輪代表争いが大きな注目を集めた今大会は、序盤から異例な事態が起きた。

スタートから世界記録を上回る超ハイペースでレースは進み、17キロ付近でペースメーカーが早くもひとり離脱。その後もひとりが消え、26キロ手前では最後の1名も脱落。あまりの高速ペースに先頭集団のペースメーカーが付いていけず、なんと設定の30キロを走り切ることなく、全員が姿を消す前代未聞の展開で進んだ。

加えて、誰も予想できない波乱がこの間に起こる。先頭集団で悠々とレースを進めていたリオ、東京五輪の男子マラソン金メダリストのエリウド・キプチョゲ(ケニア)が20キロ手前で集団から遅れ出したのだ。

絶対王者の異変に沿道のファンは騒然。テレビ中継の解説を務めていた2000年シドニー五輪金メダルの高橋尚子氏は「非常に驚きました。こういうキプチョゲ選手を見るのは初めてです」と唖然。目の前で起きている光景が信じられない様子だった。
キプチョゲはその後も、ズルズルと大幅に後退。25キロでは先頭から1分11秒差まで広がり、34キロ付近では日本勢トップを快走していた西山に詰められて交わされるほど、精彩を欠いた。

終盤はなんとか、五輪2連覇を収めた意地を見せてスピードアップ。本来の走りとは程遠い内容だったが、棄権することなく超人は最後まで完走した。大会記録で優勝したベンソン・キプルト(ケニア)の2時間2分16秒から4分34秒差のタイム(2時間6分50秒=10位)で2年ぶりの東京マラソンを終えている。

レースを終えた王者は「途中で何か異変が起きた」と明らかにし、原因不明の失速について戸惑いを隠せなかったが、詳しい言及は避けた。百戦錬磨のランナーは「スポーツはいい日もあれば悪い日もある。今日は残念ながら悪い日だった」と自身の結果を冷静に受け止めながら、「毎日がクリスマスではない、ということだ。私たちは今日の教訓を明日への糧としていくまでです」と気持ちを切り替え、反省点を次に活かすことが大事だと強調した。

今夏のパリ五輪は、前人未到の3連覇がかかる。周囲の期待が大きい五輪王者は「(今日は)身体が付いてこなかった。トレーニングを再開してから考えたい」と話すにとどめ、5か月後に迫った祭典までに立て直しを図る。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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