大切なこと(3月4日)

 中年の体育教師が1986年から2024年にタイムスリップするテレビドラマが話題を呼んでいる。昭和と令和、それぞれの社会の「行き過ぎ」を、教師の家族を軸に風刺を効かせて描いている▼昭和の文化や世相を50代以上は懐かしみ、20代には新鮮に見えるのかもしれない。一方で、昭和では「当たり前」の多くが時代遅れと思い知らされる。やや窮屈に感じる人がいるならば、昭和の気風に返ってみて異世代との円満、調和を心がけるのが良策だろう▼〈降る雪や明治は遠くなりにけり〉。学徒動員の旧制中生を下川崎村(現福島市、二本松市)に引率した経験を持つ俳人の中村草田男は、昭和に入って6年目の1931年、名句を残した。母校の小学校を20年ぶりに訪れ、まだ明治が続いているかのような錯覚と永久に消え去ったとの思いを詠んだという(宮脇白夜著「新編・草田男俳句365日」)▼中高年は同じ心境か。元号が移らなければ、今年は昭和99年。時の流れとともに変化が必要なことと、消してはならぬ大切なことがある。働き方、家族の絆…。考えをあれこれと巡らせたい。新旧世代が「不適切!」といがみ合う時代の溝に、はまらぬように。<2024.3・4>

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