【寄稿】「将来人口推計」 “減少”を前提に語る時 谷村隆三

 長崎県の人口が26年後には現在の3分の2になるという。5年ごとに人口の将来推計をまとめている国の研究所が今回、2020年の国勢調査をもとに自治体別の推計値を公表した。長崎県の20年の人口約131万人は50年には87万人余になるとされる。これは20年に比べて44万人、率にして34%の減少。減少率は全国で5番目、九州・沖縄地方では最も高い。どうする?
 市町別の減少率を見ると、新上五島町60%、小値賀町58%、対馬市・南島原市・西海市・平戸市で50%を超える。長崎市と佐世保市は32%減、大村市さえも11%の減少だ。
 長崎県はこれから詳細に分析し減少の要因を突き止めたいとし、また子育て支援・雇用創出など人口減少対策を続けていきたいとしている。
 人口減少、少子化が問題にされてからすでに何十年も過ぎ、その間同じようなコメントが続けられてきた。毎度おなじみの選挙公約でもある。そもそも少子化対策や子育て支援は出生率を高めることにつながるのだろうか。
 出生率の低下は多くの先進国に共通する課題だ。世界の歴史を見ると、発展途上国は出生率が高い傾向がある。しかし、国が発展し、所得水準が上がるにつれ出生率は下がる。子供の養育や教育には多額の費用がかかる。一方で、親は今の自分たちの生活も豊かにしたい。ヒトが自らの血筋を残そうと思うのは、いわば生存本能に根差した自然な願いだが、社会が高度化・複雑化すると、ヒトは“本能”のままに生きなくなる。
 国や地方自治体の少子化対策や子育て支援について言えば、さまざまな面から「親」になろうとする人の決断を後押しすることも、新しく誕生する生命を手厚く歓迎することも、決して間違ってはいない。しかし、子を産み育てるという決断にせよ、少子化の大きな背景要素として指摘される晩婚化・非婚化にせよ、極めてパーソナルな選択の結果である。政治や行政の手でできることには限界があるのだ。
 仮に、国や県の少子化対策が劇的な効果を上げたとしても、その変化が現れるまでには相当に時間がかかる。人口の減少は抗(あらが)いようのない未来だ。子育て支援・雇用創出と並行して、人口が減っていくことを前提にした県の将来展望を前向きの政策として語るべき時期が来ていないか。
 身近で豊かな自然、慣れ親しんだ食べ物、お祭りなどの人とのつながり、独特の歴史と文化-そうした誇るべき全てを人口減ごときで失ってはなるまい。その危機が目前に迫ってから議論を始めるような泥縄式の付け焼き刃では到底太刀打ちできない。

 【略歴】たにむら・りゅうぞう 1949年長崎市出身。星野組取締役相談役。2005年から県建設業協会長を17年間務め、現在は同会相談役。建設業労働災害防止協会県支部長なども務める。武蔵野美術大学造形学部卒。

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