今季からファーム・リーグに新規参入する「くふうハヤテベンチャーズ静岡」は2日、ナゴヤ球場で行われた春季教育リーグ・中日戦で既存のNPB球団と初めて対戦。記念すべき初戦を2対2の引き分けに持ち込んだ。
前日から開幕した春季教育リーグだったが、バスで約3時間かけてナゴヤ球場に到着した直後にグラウンドコンディション不良で中止に。仕切り直しとなったこの日、チームの記念すべき初戦を前に赤堀元之監督(53)は選手たちにこう伝えていた。
「初戦なので本当に泥臭くというか。スマートにやるのではなく、しっかり向かっていく泥臭さ、何がなんでもっていう感じでやろう」
先発を託されたのは、三重県出身で名古屋にある星城大卒の技巧派左腕・奥田域太(22)。「テンポの良さが持ち味になりつつあるので、いつもと変えずに自分のスタイルのピッチングで」と中村勝投手コーチのアドバイスを胸に記念すべきマウンドに登った。
初回に二死二、三塁のピンチを切り抜けると、そこからは本領発揮。持ち前の小気味よい投球テンポから繰り出される多彩な変化球で、3回までスコアボードにゼロを並べていった。
試合が動いたのは4回表。ここまで中日先発・松葉の前に無安打だった打線が、一死から2番・瀬井裕紀(24 ・九州アジアリーグ熊本)の左中間を破るチーム初安打。ボールが外野フェンスへと転がる間に一気に三塁を陥れ、3番・倉本寿彦(33・元DeNA/日本新薬)へとつなげた。
「このランナーは還さないといけない、自分が還すんだ」。そう思いながら、打席に立った倉本は初球から積極的にスイング。しかし2球連続でファウルで追い込まれてしまう。
そこから粘って6球目。外寄りの変化球をレフトまで運んで犠牲フライ。福田秀平(34・元ロッテ)と共に、打線を牽引するベテランのバットが先制点を呼び込んだ。
「(最初の2球で)仕留めたかったんですが、追い込まれたので切り替えました。『最低限の仕事を』と考えての犠牲フライ。そこはよかったと思います」
これがNPB球団を相手にあげたチーム初打点。そう伝えると「気にしていなかったです」と照れ臭そうに笑顔を見せた後、こう続けた。
「本当にゼロからのスタートで、ひとりひとりが『初めまして』のところから始まった。キャンプ、試合と野球の中でお互いを知っていって、試合の中でのチームワークだったりができてきていると思うので、これから本当に一つひとつを積み重ねていきたいなと思います」
待望の先制点でベンチに一体感が生まれた。しかし相手はNPB球団、そう簡単にはいかなかった。
直後の4回ウラ、好投していた奥田域が”NPBの洗礼”を受けた。この日2回目の対戦となった4番・鵜飼にインコースのボール球を捉えられた。レフトのネット中段へ強烈な弾丸ライナー、あっという間の同点弾だった。
「『やっぱりこれがプロ(NPB)か』って思いました。正直、そんなに甘いコースではなかったと思いますが、あそこまで持っていかれた。やはりボールを投げるのなら、もっと厳しいところへ投げないと持っていかれる。もっと(コースの)投げ分けを求めていかなければいけないと思いました」
NPBレベルを肌で感じた奥田域。その後、味方のエラーやフォアボールなどで二死満塁のピンチを迎える。気温は7度ながら、時折小雪が舞い落ちるほど冷え込んだナゴヤ球場だったが、奥田域の胸の内はたぎる思いで燃えていた。
「最後は左バッターのインコースを攻めていく意識でいきました。3球連続インコースのまっすぐでいきましたが、高さは間違えても(インコースの)ラインだけは外さないように意識していたので、それで最後は高めに手を出してくれたのかなと思います。デッドボール(で押し出し)の怖さもあったんですけど、そこを怖がっていたら、この先プロ(NPB球団)との対戦ばかりなのでやっていけない。気持ちを強く持って投げ切ろうと思っていきました」
四死球でも失点につながる苦しい場面を徹底したインコース攻めで凌ぎ切った。一軍経験者も名を連ねた中日打線を相手に4回72球、鵜飼のソロホームラン1失点のみ抑えた。
2月23日に予定されていたオイシックス新潟アルビレックスとの練習試合を含め、ここまで予定されていた実戦を消化できずに、教育リーグの開幕を迎えたくふうハヤテ。直近の2月27日に行われた社会人の強豪・ENEOSとの練習試合では、多くのミスもあり15失点で大敗。先行きが危ぶまれた。
しかしこの日は、奥田域の後を受けた竹内奎人(24・群馬大医学部)、早川太貴(24・ウイン北広島)、村上航(23・BCリーグ茨城)が、再三ピンチを迎えながらも、5回以降の中日打線を内野ゴロでの1失点のみに抑えた。
打線も1点を勝ち越された直後の7回表、相手のミスから無死二塁のチャンスを掴むと、6番・折下光輝(24・元巨人育成/関西独立リーグ堺)が右方向への進塁打で走者を進め、途中出場の深草駿哉(22・九州アジアリーグ熊本)の高く弾んだサードゴロで、三塁ランナーのキャプテン・高橋駿(26・九州アジアリーグ北九州)が同点のホームをついた。
チームにとって記念すべきNPB球団との初対戦は、投打の両面で粘りを見せ、引き分けに持ち込んだくふうハヤテ。まさに試合前、赤堀監督が選手たちに伝えていた「泥臭さ」を実践したような試合となった。
「本当によくがんばったと思います。(NPB相手に)一応、戦えたということは、選手たちにとってもチーム全体にとってもよかった。ミスが出るのはよくないのですが、気持ちの部分が出ていました。1点を取られても『なんとかこの1点で(凌ぐ)』とか『2点目や絶対にやらないぞ』という気持ちが、ピッチャーにも野手にも出ていたのかなと思っています」
しかし、新チームの指揮官はこう続ける。
「まだまだ、もっと食らいついていかなきゃいけないと思っています。今日は良かった試合だったと思いますが、これに甘んじていてはいけない。(相手も)まだベストじゃないと思うんですよ。今後、ベストなメンバーが来たときに、また違う形になると思うので、もっとね、引き締めていかなきゃいけない。やっぱりもっともっと上を目指していかないといけないので」
目指すべき場所のレベルの高さをそれぞれが実感しながらも臆することなく、まずは結果を示すことができたNPB球団との初対戦。今後、立ちはだかるであろう様々な課題をチームと選手一人ひとりがどう乗り越えていくのか。新たな挑戦はまだ始まったばかりだが、この1年で多くの可能性を見せてくれることを期待したい。
取材・文●岩国誠
【著者プロフィール】
岩国誠(いわくにまこと):1973年3月26日生まれ。32歳でプロ野球を取り扱うスポーツ情報番組のADとしてテレビ業界入り。Webコンテンツ制作会社を経て、フリーランスに転身。それを機に、フリーライターとしての活動を始め、現在も映像ディレクターとwebライターの二刀流でNPBや独立リーグの取材を行っている。