AIが作り出す民意の歪曲…選挙戦を揺さぶる=韓国報道

先月、韓国の大統領室は大騒ぎになった。「ユン・ソギョル(尹錫悦)の良心告白」というタイトルの映像がユーチューブやティックトックなどの映像系ソーシャルメディアに流布されたためだ。尹大統領が自身の実情を自ら告白するこの映像は、すぐに偽物だということが明らかになった。尹大統領の映像と声をつなぎ合わせて作った虚偽の映像だったのだ。

ことしは世界76か国で選挙が行われる「スーパー選挙イヤー」だ。各国の選挙戦でディープフェイクを駆使したフェイクニュースが猛威を振るっている。また、人工知能(AI)アルゴリズムによるコンテンツの偏向もやはり民意の両極化に影響を及ぼしている。公正な選挙管理が求められる韓国を含め、世界各国がAIへの対応をめぐり苦心している。

大統領室と韓国政府は選挙を控え、フェイクニュースに対する強力な対応方針を明らかにした。中央選挙管理委員会は「虚偽事実誹謗AIディープフェイク特別対応モニタリング班」を作り、放送通信審議委員会も対策のための準備に乗り出した。

近年登場したディープフェイクは、技術の発達によりその人物の写真と音声資料さえあれば、実際の人物とほとんど違いがない映像を作ることができる。つまりやろうと思えば誰にでもフェイクニュースを簡単に流布することができるということだ。また、虚偽の映像の流布を防ぐことも容易ではない。ユーチューブやネイバーなどのプラットフォームではディープフェイク映像に識別表示を出すようにしているが、すべてのソーシャルメディアを統制することは不可能なためだ。

もうひとつの問題は、AIアルゴリズムによるコンテンツの偏向の問題だ。利用者の嗜好により偏向したコンテンツが推薦されるため、自分と考えが違う人々の意見を広く聞くことが難しくなった。

放送通信委員会の常任委員を務めたトングク(東国)大学AI融合学科のコ・サムソク教授は「AI技術の発達にともなう副作用が予測よりはるかに大きく現れている。この問題を解決しなければ社会的統合を阻害することになり、国力を浪費する要因になりうる」と述べ、「かといって規制で解決できることではないため、政府や企業、市民と社会間の自浄努力が作用するための社会的合意が必要だ」と助言している。

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