「昆虫食」世界は注目、日本は拒否反応も 「漠然とした不安」漂うなかビジネスとしての可能性は

食料不足の解決策として、世界的に注目を集める「昆虫食」。一方で日本では、食用コオロギ養殖を手掛ける企業が倒産した。国内では2023年2月、徳島県内の高校がコオロギパウダーを使った給食を試食で提供し、昆虫食に対する拒否反応がSNS上を中心に相次いだ。

昆虫食に対する世間の認識、またビジネスとしての今後について食用昆虫科学研究会に取材し、詳しい話を聞いた。

大量生産・消費は「時期尚早」

国内の倒産情報サイト「JCNET」によれば、食用コオロギを養殖・加工するクリケットファーム(長野県茅野市)が、親会社も含め2024年1月17日に破産手続きの開始決定を受けた。同社の負債額は約1億円だという。食用コオロギのベンチャー・グリラス(徳島県鳴門市)も1月25日、ペットや水産・畜産動物向けに食用コオロギを提供する「コオロギ研究所」を閉店するとX(旧ツイッター)で発表した。

食用昆虫科学研究会は、昆虫食ビジネスについて大規模な設備投資をし、大量生産・大量消費をするのは、「我が国では少なくとも時期尚早」との見解を取材に示す。

一方、タイではコオロギ養殖が広がっている。その要因は「初期投資が少ない形で、個人のような小規模で始められることで農家の所得向上に大きく貢献した」ためだ。巨額の投資や研究費なしでも、黒字を達成している企業もあると説明する。

否定的な感情がネット上で増えてきた

研究会によると、先述した2023年2月の出来事で、国内の昆虫食に対する拒否反応は今までで最も強かったと話す。

環境に優しい、SDGsに貢献できる――。そんな風に一面的に語られてきた昆虫食を「環境や社会のために今後は食べるべき」と感じ、漠然とした不安を抱える人が増えたのではないか。蓄積された不安が、前述した「コオロギ給食」をきっかけにインターネット上で爆発したのではないか。研究会では、こうみている。

当時は誤情報も拡散したという。「コオロギは妊婦に害がある」「コオロギに補助金が投入されている」「給食でコオロギを強制的に食べさせている」......。現在では、誤情報に基づく批判が大幅に減ったと分析している。

23年2月の炎上をきっかけに、昆虫食に対する否定的な感情がネット上で増えてきたと感じるとも。一方で、「現実世界では良くも悪くも『変わり者のための食品』程度の認識かと思います」。

食用とされてきた昆虫は約140種類

昆虫食に嫌悪感を示す声は、今日でも多い。研究会では昆虫食について、大規模な設備投資などを行う企業は厳しい状況が続く半面、ビジネス自体は緩やかに拡大すると考える。

コオロギ以外の昆虫食が扱われるようになり、「嗜好品としての高級路線」や「飼料としての昆虫利用」といった多様な商品化で広がるのではないか、というのだ。そのためには「食べたい人が食べるもの」と強調することが大切だと訴える。

「『牛、豚、鶏、魚介類に加えて昆虫も選択肢の1つに加えてみませんか?』というような姿勢を示していく必要があると思います」

昆虫食を「知る」ことで、おいしく感じることもあるのではないか。研究会は、昆虫食の歴史や食文化的な背景はほとんど発信されてこなかったと指摘。伝統料理や民族料理を文化的に学べば、「おいしい」と感じることもあると話す。

「コオロギは日本でも、東北地方や中部地方で食されてきた記録があります。人類は古くから昆虫を食べてきました。日本も豊かな昆虫資源を持ち、コオロギをはじめ食用とされてきた昆虫は約140種類にのぼります。こういった大きな昆虫食文化の流れの中にコオロギ食品などもあるべきではないでしょうか」

一方、現代に合わせた安全性も担保することも重要だと指摘する。「時代にあった安全性の確保、調理加工方法をもう一度模索する必要があると思います」

© 株式会社ジェイ・キャスト