能登半島地震で「地区防災計画」の必要性は浮き彫りになったのに…現場は鈍い反応、背景には集落の高齢化と認知度不足

完成した平田町地区防災計画について意見を交わす野村和弘さん(左奥)=枕崎市役所

 地域コミュニティーなどで災害時の対応を決めておく「地区防災計画」の策定が、鹿児島県内で進んでいない。県によると、計画を備えるのは全43市町村中、23市町村93地区(昨年4月時点)にとどまる。背景には高齢化や認知度不足などがあるとみられる。全国的に大規模災害が頻発する。県は支援事業を強化し、計画の重要性を呼びかける方針だ。

 「来年度は避難所運営のマニュアルも盛り込みたい」。2月末、枕崎市の平田町自主防災会の野村和弘会長(63)は完成した地区防災計画を前に、支援を受けたNPO法人アユダールの村野剛代表理事(62)らと意見を交わした。

 本年度の県事業を活用し、計画をまとめた。浸水・土砂災害の危険箇所や避難場所を確認。計画には防災マップや災害ごとの行動手順などを記し、自力避難が難しい高齢者らの避難方法も盛り込んだ。

 地区防災計画は東日本大震災を受け、2013年の改正災害対策基本法で規定。住民が地域の特性や想定される災害に応じて対策を決める。能登半島地震でも発災直後は行政の支援が手薄となり、自助共助の必要性が浮き彫りとなった。

 ただ県内での動きは鈍い。「高齢化で自治会の維持自体が難しい地区も増え、余力がない」「住民や自治体だけでは計画の作り方が分からない」。各自治体の防災担当者は計画が浸透しない理由を説明する。

 県は24年度当初予算案にも支援事業費225万円を計上。2地区を選び、専門家を通じて計画策定のノウハウを提供する。他地区にも計画策定を促そうと周辺自治体の担当者も招く予定。

 枕崎市総務課の平田寿一参事(57)は、県事業を一過性で終わらせない仕組みを心がける。「市として計画作りの流れを初めて学べた。他地域にもしっかり伝えていく」と強調した。

 本年度事業のもう一つの対象地区は、伊佐市の湯之尾校区コミュニティ協議会。大保義人会長(74)は「自治会の枠を越え、校区全体で防災に目を向けていきたい」と話す。県災害対策課の阿部和矢課長(53)は「高齢化が進む集落では、近隣自治会などと連携して計画を作るのも有効だ」と訴える。

 村野代表理事は「住民同士で災害時の避難方法などを共有する過程が大切。平時から声をかけ合う雰囲気が防災意識の向上につながる」と指摘した。

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