樋口恵子さんのメッセージ「90代で残っている記憶力はプラスのほうに使いたい」

歳をとってボケるということ——。もう若くないと感じることが増えてきた方も、親の介護で老いに直面してる方も、みなさん心に思うことがあるでしょう。開き直ることも必要。そうおっしゃるのは、評論家の樋口恵子さん。著書『老いの地平線 91歳自信をもってボケてます』から、樋口さんからのメッセージを紹介します。
※2023年8月25日に配信した記事を再編集しています。

自信をもってボケてます

認知症は私も怖いです。こんなことがありました。机の上から必要な書類がなくなり、必死で探したら、捨てるつもりのゴミの山の中から出てきて、ゾゾッとしました。親友のひとりは、出先で受け取ったダンスのお手本のビデオを紛失したと思ったら、1週間後に自宅の冷蔵庫の野菜室で発見。どうやら受け取った後に、スーパーで買った野菜の袋に入れて持って帰り、そのまま冷蔵庫に放り込んだらしい。野菜室の底で冷え切ったビデオを見つけた際は、「私、大丈夫かしら......」とゾゾゾーとしたそうです。

そんなこともありますが、怖がってばかりいないで、「認知症になったらなったで仕方ない!」と開き直ることも必要かなと。ボケる、ボケないは神様に任せるよりしようがないですから。私も2023年、91歳。年齢なりにボケている!と自信をもって言えます。「自分は絶対ボケない、ボケてない!」と言うよりは、自然かなと思います。

ただし、ひとり暮らしの場合、引きこもらずに、外に出ていって人と話をすることは必要だと思います。人とコミュニケーションをとることが、認知症予防や進行を遅らせるのにも大切といわれますし、きっとまわりに早く発見してもらえるはず。初期での発見は大事であり、薬で進行を遅らせる(※)こともできるようです。

それから、きれいごとすぎるかもしれませんが、認知症から逃げることだけを考えず、「仮に認知症になっても安心できる社会をつくっておくため、自分に何かできることは?」と自分自身に問いかけてみてはどうでしょう。それと並行して、何歳になっても認知症についての勉強をしておきたいと思います。

※薬で進行を遅らせる
現在、アルツハイマー型認知症に使う薬が4種類、レビー小体型認知症に使う薬が1種類認可されている。

残っている記憶力はプラスのほうに使う

脳科学者である東北大学の瀧靖之先生との対談で、「昔の話をするのはいい習慣」とほめていただきましたが、それは単に今が面白くないからかもしれません。昔はよかった、あのときは面白かったと、思い出すことが多いのでしょう。

私は励まされる場面を人生の中でたくさんいただいたからだとも思っています。ありがたいことです。だからへこたれても大抵、「こんないいときもあったぞ」「こう言ってくれた人もいたんだから頑張らにゃ」と思えます。

そんなふうに、90代で残っている記憶力はプラスのほうに使いたいと思っています。だって、恨みつらみだけを覚えていてもしょうがないですから。

誰かに言われた言葉が悔しくて忘れられないのであれば、「負けずにやってやろう」と、悔しさを糧にすればいいのです。「悔しい」だって、とてもいいプラスのエネルギーになりますよ。

とはいえ、過去には私にも「生きているうちは負けそうだから死んだら化けて出てやろう」と思うような人もおりました。

けっこうけんかもしたし、「ぐぬぬ」と唇をかんだこともあったし、電話をかけてもう一度文句を言ってやろうかと思うときもあったし。でも、またけんかをやり直すのは「えらいこっちゃ」と思うから、ぐっと我慢しました。だから、あの世から化けて出てやろうと思ったのです。

ところが、みんなだんだんといなくなってしまいました。私より先にあの世に行ってしまったのです。今はもう化けて出る相手もいません。

そして、そういう恨みの気持ちは時間が経って薄らぐこともあり、あの人は化けて出るどころか本当は自分の味方だったのだと思い直すこともあります。

だから、恨みつらみなんていうのもそのときどきのことで、ある意味、豊かな人間関係のひとつと思えるようになりました。こちらが恨み骨髄と思うほどに深く関わってくださって、誠にありがたいと思います。

※この記事は『老いの地平線 91歳自信をもってボケてます』樋口恵子著(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

書籍紹介 『老いの地平線 91歳自信をもってボケてます』
発売後すぐに重版出来、Amazon 本 日本文学 名言・箴言ランキングで一位取得、など40〜90代まで幅広く人気の話題の本。

樋口恵子著
主婦の友社刊
詳細はこちら
老いのトップランナー・91歳の評論家 樋口恵子さんの痛快エッセイ。ボケるのが怖い人、老後の暮らしを心配している人、まだまだ夢をもって超高齢期を迎えたい人、親や祖父母世代が認知症になったらどうしようと悩む若い人、どんな世代にでも、男女差なく読んでいただきたい本です。社会学者・上野千鶴子さんとの「貧乏ばあさんの生きる道対談」、脳科学者・瀧靖之さんとの「ボケにくい!健脳対談」も収録。巻頭グラビアでは「91歳が安心して住める家実例」を紹介。

※「詳細はこちら」よりAmazonサイトに移動します(PR)


© 株式会社主婦の友社