歌を歌うと、そばにいる犬もいっしょに遠吠えを始めるのはなぜ?と、不思議に思ったことはありませんか? 話題の新刊『最新研究で迫る 犬の生態学』から、犬が抱える複雑なホンネを読み解きます。動物行動学の知見から、犬の気持ちを探ってみましょう。
仲間と同じ行動をとることで 安心を得て絆を深めようとする
犬は本来群れで生活していたことから、「仲間と一緒」を好む動物。飼い主と一緒にいることはもちろん、飼い主と同じことをしたり、真似をしたりするのも大好きです。
例えば、クルッと回るといった無意味な動作でも、飼い主が何度も繰り返しているうちに真似するようになることがわかっています。この習性を利用して、飼い主にとって望ましい行動を教えるトレーニングメソッドもあるほどです。飼い主が歌えば、真似をして同じように声を出そうとするのでしょう。
また、犬の近縁種であるオオカミの遠吠えには、他の群れに対する牽制、遠くにいる仲間とのコミュニケーションの他、複数頭が合唱のように一斉に遠吠えすることで、群れの結びつきを強めるといった役割があります。犬も飼い主と声を合わせることによって、絆を深めようとしている可能性があります。
社会性ゆえに飼い主や同居犬を真似る
飼い主と同じように、同居犬も、犬にとってはともに暮らす仲間。
多頭飼育の場合、お互いの行動を真似し合う姿もよく見られます。
一緒に行動する存在がいることで、より行動が促進されます。
多頭飼育の来客吠え
多頭飼育で1匹が吠え始めると、他の犬もつられて吠えてしまうのは、同居犬を真似る習性ゆえ。
同じ理由から、食欲がないのに同居犬につられてたくさん食べたり、散歩中に同居犬と同じ場所を嗅いだりすることも。
叱られても「反省」はできない。 望ましい行動を学習させることが大切
上の例のように多頭飼育で一斉に吠えたり、散歩のときにみなで引っ張ったりといった行動がクセになってしまっている場合、まとめて叱っても効果は期待できません。みなで真似し合うことで行動が促進されていますし、そもそも犬は叱っても反省できません。
やめさせるにはまず、「最初に行動する1匹」を見つけること。見つかったらその犬にまず望ましい行動を教えることが解決の第一歩になります。
愛する飼い主のことは「 声 」を聞けばわかる
子犬は、母犬やきょうだい犬の行動を見て、真似をすることで社会での適切なふるまい方を学んでいきます。これを「社会的学習」といいます。
自分だけで試行錯誤して学ぶよりも、他の犬を真似ることによって、よりスムーズかつ 安全に学習できるというわけです。
同種間で真似して学習することは他の動物でもよくあることですが、犬は同種間だけでなく、種の異なる飼い主の行動も真似ることができます。多くの犬が苦手とする迂回テストでも、人に手本を見せられた後では格段に成功率が上がることがわかっています。
しかも、単純に人の行動を真似ているわけではなく、適切な場合にのみ真似することもわかっています。
犬の目の前で、人が机の上のボタンを頭か手のどちらかで押してみせる実験では、手の使えない状況下で頭でボタンを押しても真似しないものの、手も頭も使える状況で頭でボタンを押すと真似をするという結果が出ました。前者は「手が使えないから頭で押した」と考え、真似をしなかったのだと考えられます。
イラスト/さいとうあずみ
※この記事は『最新研究で迫る 犬の生態学』(菊水健史著 エクスナレッジ刊)の内容をWEB掲載のため再編集しています。