核ごみ反対の現職が3選 長崎・対馬市長選 島の分断、衰退への根強い危機感…問われる手腕

対馬市長選で最終処分場反対を掲げて圧勝した比田勝氏。3期目の手腕に厳しい視線が注がれている=3日夜、対馬市厳原町

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場誘致の是非が問われた長崎県対馬市長選は3日投開票され、反対を掲げた現職の比田勝尚喜氏(69)が、新人の荒巻靖彦氏(59)に圧勝し3選を果たした。比田勝氏は判断が支持されたと受け止めるが、地域衰退への危機感は依然根強く、一連の議論は続くとの見方もある。選挙戦を振り返り、今後の見通しを探った。
 「大差での勝利は、市民の大半が受け入れを反対したことにつながる」。3日夜、9割弱を得票した比田勝氏は報道陣に強調した。
 昨年、島は最終処分場を巡る議論で二分された。市議会は同9月、建設4団体が提出した最終処分場選定調査の促進請願を賛成多数で採択。比田勝氏は「市民の合意形成が不十分」として受け入れないとの市長判断を下し、同時に市長選への立候補も表明した。
 複数の関係者によると、誘致賛成派市議などは当初、対抗馬擁立を模索したが断念。最終的に一部市議が前回の市長選(2020年)にも出馬した荒巻氏擁立に動いた。荒巻氏は賛成票を掘り起こそうと、誘致の是非を単一争点化。確かな手応えを感じ、選挙関係者の間では「前回の票数(1908票)より増える」との観測も広がった。
 しかし結果は前回を下回り、荒巻氏は「もう対馬への(最終処分場)誘致は難しい」とうなだれた。
 ただ、投票率は過去最低だった前回を1.27%上回る64.50%だった。上対馬町の男性は最終処分場誘致が争点になり「選挙への興味がわいた」と語る。
 反対派市民団体は投票結果を歓迎しつつ、議論再燃への警戒を崩さない。メンバーの吉見優子さん(82)は「『核のごみ受け入れ拒否条例』を制定するまでは安心できない」。制定には市議会の議決が必要で「来年春の市議選で反対派議員を増やしたい」と息を巻く。
 一方、賛成派市議は誘致の賛否を問う住民投票の模索を続けている。市議の一人は「対馬の人間同士の戦いだったら結果は違った。今回の市長選が全て賛否を示すものではない」と指摘。「このままでは北部は人がいなくなる。起爆剤が必要だ」と衰退する地元の現状に焦りをにじませ、選定調査による交付金などに期待する。
 こうした危機感は、比田勝氏を支持する市民にも少なくない。街頭演説を豊玉町千尋藻で聞いていた70代女性は「礼儀正しく穏やかだが、比田勝さんにはパワフルさがない。何かを変えてほしい」と苦笑いした。
 当選直後、「観光と1次産業を活用した『海業』振興を中心に、今後の産業活性化を進めたい」と述べ、核のごみに頼らない施策を進める考えを改めて示した比田勝氏。支援する市議は「対馬市で3期目の市長は初めて。しっかり仕事をしてもらわないと」と厳しい視線を注ぐ。一連の議論による分断を終わらせ、持続可能な島を作り上げられるか、比田勝氏の手腕が一層問われる。

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