賃金に変化の兆し、物価目標へ着実に歩を進めている=中川日銀委員

Takahiko Wada

[松江市 7日 ロイター] - 日銀の中川順子審議委員は7日、島根県金融経済懇談会であいさつし、企業の賃金設定を巡る姿勢に明確な変化の兆しが見られるなど、経済・物価情勢は2%物価目標の実現に向けて「着実に歩を進めている」と述べた。ただ、日本経済には自然災害の発生などさまざまな不確実性が常に存在するとして「その時点での適切な政策運営のため、予断を持たずに情報収集を続けた上で判断したい」と語った。

高田創審議委員が2月29日に、経済の不確実性はあるものの「2%物価目標実現がようやく見通せる状況になってきた」と言明し、市場では早期のマイナス金利解除観測が高まり、中川委員の発言に注目が向かっていた。

中川委員は「高水準の企業収益に支えられ、賃金と物価の好循環が展望できる」と指摘。一方で、経済・物価の先行き見通しにはさまざまな不確実性が存在するとし、リスク要因として海外の経済・物価や国際金融資本市場の動向、地政学リスクと資源・穀物価格の動向、消費者マインドの動向を挙げた。

政府の物価対策や雇用・所得環境の改善などで現時点で消費者マインドは維持され、当面は賃金の上昇期待によって支えられるのがメインシナリオだが「実質所得が伸びず下振れる場合、消費者マインドの悪化を通じて需要が減衰し、経済・物価に対して下押し圧力を及ぼすリスクがある」との見方を示した。

中川委員は、今後、仮に2%目標が見通せる状況に至ったと判断され金融政策を見直すことになった場合には、イールドカーブ・コントロール(YCC)のほか、リスク性資産の買い入れなどについて「金融市場への影響とともに、これらが非伝統的なものであることも念頭におきながら議論が行われ、修正要否について判断することになる」と指摘した。

<今春の賃金改定に期待感>

中川委員は、賃金について楽観的な見方を示した。企業経営者から、人手不足に対する危機感と賃上げに対する前向きな声が「昨年にも増して聞かれるようになった」と感じると述べ、「今春の賃金改定も、過去対比で高めの水準で着地する蓋然(がいぜん)性が高まっている」と指摘した。

実体経済については、鉱工業生産は「一部自動車メーカーの工場稼動停止の影響も加わって、足元弱めの動きがみられている」とする一方、個人消費は足元で弱めの指標も見られるが「基調として大きな変化はなく、緩やかに増加している」と述べた。

その上で、国内経済は海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化や政府の経済対策の効果にも支えられて「緩やかな回復を続ける」と予想した。

(和田崇彦 編集:田中志保)

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