【韓国】【24年総選挙】与党優勢で終盤戦へ[政治] 医師対立を評価、野党内紛で後退

韓国の国会議員総選挙の投開票まで約1カ月。与党は、医学部の定員拡大を巡り反対する医師側との対立姿勢などが評価され、支持率は上昇傾向にある。一方、野党は公認候補者の選考で内紛が表面化し、離党者が相次ぐなど混迷が続く。注目を集めた「第三極」は新党の合流が決裂したことで影響力が低下している。4月10日投開票の選挙戦は、与党優勢で最終コーナーに差しかかった。【中村公】

保守系与党「国民の力」所属のある予備候補者は2月末、韓国テレビ局MBNのインタビューで「国民の力は150~160議席(単独過半数)を確保するだろう」との大胆予想を披露した。選挙を約1カ月後に控え、与党内の余裕が垣間見える象徴的な発言として、他のメディアでも大きく取り上げられた。

これには、同党の韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長(前法相)から「根拠がない」との指摘を受け、党内陣営からも批判が上がった。選挙が終盤戦を迎える中、「油断は禁物だ」との注意喚起の意味合いが含まれていたとみられる。

■政党支持率1年ぶりの逆転

支持率で見れば、ここにきて与党の優勢は鮮明になっている。

韓国世論調査会社のリアルメーターによると、2024年2月28~29日に実施した調査で与党国民の力の政党支持率は46.7%と前回調査(22~23日)より3.2ポイント上昇した。革新系最大野党「共に民主党」の39.1%(0.4ポイント下落)と比べその差は7.6ポイントとなった。前回の調査時は国民の力が共に民主党を約1年ぶりに上回っていたが、今回はその差がさらに広がった格好だ。

与党の支持率上昇の一因には、医学部定員の拡大政策がある。韓国政府は2月、深刻な医師不足の解消に向けて大学医学部の入学定員を25年度の入試から2,000人増員することを決定した。

これに医師側は猛反発し、ストライキ行為として約9,000人の専攻医(研修医)が病院の職場から離れる事態に発展。政府は職場復帰を求める命令に従わなかった専攻医の医師免許停止処分の手続きを開始すると発表するなど、強硬姿勢を貫いている。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は2月末、「国民の健康と命を人質に集団行動を行うことはいかなる名分でも正当化されにくい」と訴え、医師として責務を果たすことを改めて強調した。

こうした強腰の姿勢が国民から共感を得ている。尹大統領の支持率(韓国ギャラップ調査、27~29日)は39%と前回に比べて5ポイント上昇し、その評価理由には「医学部定員の拡大」(21%)が最多に浮上した。

■議員8人離党の混迷ぶり

一方、共に民主党は支持率低下に拍車がかかっている。

同党は、公認候補者の選定を巡って、李在明(イ・ジェミョン)代表に近い人材が優遇され、非主流派のベテラン議員などは公認から外されるケースが相次いでいる。2月下旬には、文在寅(ムン・ジェイン)前政権で大統領秘書室長を務めた任鍾晳(イム・ジョンソク)氏を公認として選ばなかった。任氏は記者会見を開き「これでは選挙に勝てない」と党内幹部を強く批判した。

現職に不利な公認候補選びに反発して離党する議員も続出している。今年に入り7日時点で、議員8人が離党または離党手続きを進める混迷ぶりだ。これに対し李代表は「入党も自由、離党も自由だ」と意に介さない姿勢で、事態収拾の出口は見えない状況が続く。

今回の選挙戦は元々、与野党ともに公認候補者の選定について公正と透明性を高めることが焦点とされた。具体的には「システム公薦」と呼ばれる制度の積極導入で、候補者のスキルや道徳性などの審査を通じて点数化することで、不透明だった選定方法の是正が期待された。

しかし、今回の共に民主党の公認候補選びは、システム公薦の点数制を利用して非主流派を排除するアンフェアな印象を国民に与え、公正や透明性を重視する若者や中道層離れが加速する展開になっている。

■新党乱立も影薄く

新党の影も薄い。国民の力元代表の李俊錫(イ・ジュンソク)氏が結成した「改革新党」と、共に民主党元代表の李洛淵(イ・ナギョン、元首相)氏らが立ち上げた「新しい未来」は、「第三極」の勢力集結を目指してきたが、主導権争いが原因で決裂となった。

リアルメーター(24年2月28~29日調査)の政党支持率では、改革新党が3.1%、新しい未来が1.6%と低調にとどまる。娘の不正入試に絡むスキャンダルで失脚した曺国(チョ・グク)元法相も新党を結成したが、大勢に影響を与えるほどの存在にはなっていない。

■単独過半数で「日韓に追い風」

注目は選挙の行方だ。明知大学の申律(シン・ユル)政治外交学科教授はNNAに対し「国民の力が単独過半数の150議席以上を取る可能性が高まりつつある」と予想する。

国民の力では、臨時代表職である韓非常対策委員長の求心力が一層強まっている。韓氏は50歳という若さもあって保守層から人気が高く、将来の大統領候補として有望視する声もある。今回の選挙では自身の不出馬を表明するなど公正な印象を与えており、出馬にこだわった李代表との違いも浮き彫りとなった。

申教授は「従来の総選挙は政権に対する審判の意味合いを帯びるが、今回は『韓非常対策委員長』VS『李代表』という与野党トップ同士の対決構図で、その評価が支持率と連動している部分もある」と分析する。

現在は少数与党(114議席)である国民の力が単独過半数を確保すれば、尹大統領も安定的に政権運営を進めることができる。「そうなれば、改善に向かう日韓関係にとっても追い風になるのは間違いない」(申教授)という。

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