日々を明るく照らしてくれる小さな楽しみや、心を潤すための暮らしの工夫は、幸せを感じさせてくれます。そんな暮らしを営み、わたしらしく、今を生きる女性を紹介する『60代からの小さくて明るい暮らし』(主婦の友社)から、料理研究家の大庭英子さんを2回にわたって掲載します。
PROFILE
料理研究家
大庭英子さん(70歳)
東京都在住
ひとり暮らし
福岡県出身。料理研究家歴40年以上。身近な材料と普段使いの調味料でつくる、美味しさのポイントをおさえた、簡単で親しみやすい料理に定評がある。近著は『あっこれ食べよう!70歳ひとり暮らしの気楽なごはん』(主婦の友社)。
好奇心が導いてくれた自分らしく生きる道
料理研究家歴40年以上。書籍や雑誌などで“料理・大庭英子”という表記を見かけたことがある人もおおぜいいらっしゃることでしょう。大庭さんが考案するレシピは家庭の味方。スーパーで購入できる一般的な調味料とちょっとのコツでだれでもおいしくつくれる料理を数多く提案してきました。CMや広告も手がける人気の“先生”ですが、もともと大の料理好きというわけではなく、この世界への入り口は「好奇心だった」そう。
「20歳くらいの頃、人づてに料理家の方がアシスタントを募集していると聞き、じゃあやってみようかなくらいの軽い感じでした」
10年ほどアシスタントを務めて、30代で独立。当時の仕事は広告がメイン。というのも家庭料理を扱う媒体は今ほど多くなく、“料理研究家”という肩書きもない時代でした。そんな時分に“フリー”という生き方を選ぶ、その芯の強さはどこから湧き出るものなのかと尋ねると「ほかにやれることもなかったし。ものごとを深く考えないだけなんですよ」と、なんともシンプルなお答え。
「だってね、先のことはわからないじゃないですか。今、病気になったらどうしようか、とは思いますけど、もう仕方がないしって。結局なるようになるんだなと思うんです」
さっぱり、さばさば。その気風のよさは、96歳で亡くなるまで、何にでも興味を示していたという快活なお母さまから引き継いでいるものなのかもしれません。
「4人きょうだいの末っ子だったというのもあるんですが、きょうだいでひとりくらい結婚しない人がいてもいいじゃないって母が言ってくれて。自由にさせてもらえたから、今があるんですよね」
仕事場でもある、広いLDKの壁面にとりつけられているインターホン。その上に置かれている赤いリリアンは、お母さまが亡くなったあと、親族で荷物の整理をしているときに出てきたもの。
「記憶にはないんですが、たぶん小さい頃に使っていたものなんだと思います。ここ20年くらいの趣味で各国のリリアンを集めていたということもあって、私はこれだけでいいわって」
それは言い換えると“これだけでじゅうぶん”ということ。昔から好みがはっきりしていて、自分に必要なものさえあれば、心が満たされることを知っていた大庭さんの身のまわりには、気に入っているものしかありません。
「仕事柄、調理器具や食器など多く持っているのもありますが、基本は少なくが理想。どんんなにいいと言われるものでも、自分にとっていらないものは、いらないんです」
日々を照らす、小さな楽しみ
1日のスタートはドリップコーヒーから
大好きなコーヒーを飲みたいから、朝食はいつもパン。朝6時に起き、コーヒーを保温性の高いポットにたっぷりいれ、植物やメダカの世話をしてから、7時くらいに朝食を。朝食は黒パンとクリームチーズ、ジャム、ヨーグルト、フルーツが定番。朝ごはんを食べたほうが、昼もちゃんとおなかが減ってくれます。
悩むより手を動かして、頭をからっぽに
子どもの頃にやっていたリリアンが再び気になりだしたのは20年くらい前のこと。ドイツやフランス、オランダなど各国で呼び名は違うようですが、それぞれのお国柄が出るユニークな形に惹かれて、集めるようになりました。編んだり、織ったりという無心になれる作業も好きで、たまに無性にやりたくなるときが。自然とストレス解消になっているのだと思います。
植物は生けるのも育てるのも楽しい
庭で植物を育てるのが理想ですが、わが家は集合住宅なので、鉢植えを育てたり生花店で買ったりして、小さな自然を楽しんでいます。今日は飾るものがないなというときは近所のスーパーで買ったりも。旬の野菜や果物を見かけたときと同じように、植物が視界に入ると、その季節を感じられるのが、いいんですよね。
(後編に続く)
写真/清永洋
※この記事は『60代からの小さくて明るい暮らし』主婦の友社編(主婦の友社)の内容をWeb掲載のため再編集しています。