朝市と漁師(3月9日)

 すがすがしい空気の中、笑顔が広がる。目の前に並ぶのは、地元で取れた新鮮な魚や野菜、切り花、漬物…。野口博士一枚で大抵、買い物は事足りる。朝市は古里の顔でもある▼いわき市漁協が8年前から開く朝市は、初秋から早春にかけての風物詩となった。原発事故発生後、まずは地元消費者に県産魚介類の安全・安心を伝えたいと始めた。9月は小浜、12月は沼ノ内、2月は久之浜の各漁港が会場となる。先月は、カレイやヒラメ、アナゴ、ヤリイカなどの詰め放題に行列ができた▼タチウオなど店頭では見かけない魚種も並ぶ。売り手の漁師は素材を生かす調理法を手ほどきする。客との掛け合いが楽しく、ついサービスしてしまう。県外の市場で仲買人から「福島の魚はいらない」と拒否され、誇りを失いかけた時もあった。今は触れ合いを通じて海の男の顔に明るさが戻った▼春はメヒカリやサヨリ、夏はスズキやウニ、秋はサンマ、冬はアンコウと旬は移り変わる。朝市の会場を増やす動きも出てきた。市民は次の開催を心待ちにする。魚心あれば水心。次はどんなもてなしで喜ばそうか―。荒波を乗り越えた関係者は知恵を絞る。水を得た魚のように生き生きと。<2024.3・9>

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