鳥山明さん逝く

 どんな業界でも、競争原理が働いて人は育ち、業績も伸びる。少年漫画界の部数競争もそうで、「日本マンガ全史」(平凡社新書、澤村修治さん著)によると、少年ジャンプ(集英社)は子どもの心を引きつけようと、読者アンケートの結果をことの外、重く見たらしい▲読者の票を集めるのはスポーツやバトル(戦い)、つまり勝ち負けが明白な作品であると編集者は気付く。40年前に連載が始まった鳥山明さんの「ドラゴンボール」は当初、主人公・孫悟空の冒険譚(たん)だったが、今ひとつ振るわなかった▲これを、強者が勝ち上がる「トーナメント制」の要素を含むバトル漫画にしたところ、途端に支持を集め、長期連載になったという。世界で2億6千万部以上も売れ、80カ国を超える国でアニメが放映される▲その名に「世界の」という一語を冠する鳥山さんが68歳で亡くなった。「Dr.スランプ」の「んちゃ!」。「ドラゴンボール」の「かめはめ波」…。夢中で読み、ポーズを決めた記憶をたどり、頭でしばらく時間旅行をする人も多いだろう▲世代も国境も超えて何億もの人に愛されてきた。当代の人気漫画家たちにも、海外でも、悼む声が広がる▲〈木を植ゑし男の墓に木の実降る〉鈴木貞雄。何億粒の木の実が降る音に送られ、希代の漫画家が旅立った。(徹)

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