【霞む最終処分】(27)第4部「実証事業の行方」 誘致の見返り期待 風間浦村長、財源不足を考慮

除染土壌を再生利用する実証事業の誘致が検討されている風間浦村の集落。津軽海峡を一望する=1月16日

 東京電力福島第1原発事故に伴う除染土壌を保管している中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)から北に約560キロ。本州最北部の下北半島に位置する青森県風間浦村は、人口約1600人の漁師町だ。津軽海峡に面し、冬場は高級魚のアンコウが水揚げされる。

 村は昨年3月、全国から注目を集めた。「除染土壌を再生利用する環境省の実証事業の誘致を検討している」。村長の冨岡宏が村議会一般質問で突如、見解を示した後、記者団の取材に明らかにした。環境省によると、福島県外の自治体が事業の誘致検討を表明したのは初めてだった。

 村民からは反対の声が相次いだ。冨岡はその後、公の場では実証事業について口を閉ざしている。

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 冨岡が実証事業の誘致を検討するようになった背景には、原発政策を巡る特殊な事情がある。隣接するむつ市には使用済み核燃料中間貯蔵施設、大間町には電源開発大間原発が立地する。両市町は国の原発関連交付金を受けている。同じ下北半島にある六ケ所村では日本原燃による使用済み核燃料再処理工場の建設が進み、国から多額の交付金が入っている。近隣の自治体に降ってくる「原発マネー」は年間2億~20億円に上る。それらを目の当たりにしてきた冨岡にとって、原発関連施設は「喉から手が出るほどほしい」(村関係者)存在だ。

 村の財政需要に占める収入の割合を示す財政力指数は0.10で、青森県内の40市町村で最も低い。村と近隣市町を結ぶ国道279号を除き、村内で唯一、むつ市とつながる村道は道幅が狭く、未舗装箇所が多いが、村の財源不足を理由に改修には至っていない。築85年以上の村役場庁舎を高台に移転する計画もあり、歳出がかさむ。

 村の財政力をどうにか高められないか―。環境省などから情報を集めた末に冨岡が出した答えは、除染土壌の再生利用に向けた実証事業の誘致だった。

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 冨岡の決断には、誘致の見返りとして国の交付金など財政面の恩恵にあやかりたいとの狙いがある。ただ、現状では実証事業の受け入れに伴う措置はない。環境省環境再生事業担当参事官室の担当者は「今後、受け入れ先への支援の可否について協議を進める」と話す。

 ただ、受け入れ側に利点がなければ実証事業は広がりにくいのが実情だ。専門家からはインセンティブ(動機付け)を導入する必要性を指摘する声が上がる。環境省の除染土壌の再生利用に関するワーキンググループ座長を務める北海道大大学院工学研究院教授の佐藤努は、実証事業の受け入れと引き換えに国費でインフラ整備を実施できる仕組みなどを例に挙げ、「放射性セシウムを含んだ土壌を用いる特殊な取り組みなだけに、インセンティブがなければ再利用が加速しないことは自明だ」と強調する。一方で「市町村や住民によって求める内容が異なってきている」とも指摘し、「多様なインセンティブを用意するか、何がいいかを住民と村、国で対話しながら実現を目指す方法が必要だろう」と言及した。(敬称略)

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