「女性の視点」って本当にあるの? ジェンダーバイアス助長の恐れ、使用に「反対」の声

「女性というくくりより、多様な立場に目配りをすることが大切な時代では」と話す手嶋所長(京都市東山区・京都女子大学)

 「女性の視点で見直しを」「女性の視点を生かして」といった文脈で使われる「女性の視点」という言葉。女性の当事者が少ない場面や分野で前向きな意味で用いられることが多いが、この言葉に違和感を持つ女性も少なくない。「女性ならではの発想」「女性特有の気付き」などの表現が、ジェンダーバイアス(性別に基づく固定観念)を助長するとして使われなくなってきている今、「女性の視点」も差別的な表現なのだろうか。

 意思決定の場に占める女性の割合が極端に小さい日本。50代の地方議員は選挙の折に積極的に「女性の視点」をアピールし、男性候補との違いを出す。「女性のためというよりも、全体最適を目指す意味合いで使っている」。女性議員が多ければ、病児保育の充実といった子育て施策がもっと進んでいたはずだと考えるのも理由の一つで、「マイノリティー代表という意識もある」と肯定的だ。

 商品企画に携わる40代の会社員も「女性が少ない分野で使っていくことによって、バランスを取っていく意味があるのかもしれない」と理解を示すが、近年は女子会や女子旅という言い方さえあまり聞かなくなったと指摘する。「性別は男女だけではなく多様だと考えるのが時代の流れ。女性の視点という言い方もだんだんしなくなっていくのではないか」と予想する。

 若い世代はどうか。20代の学生は意識して使わないようにしているという。「社会が求める『女性らしさ』の規範を受け入れてしまうことにならないか」と考えるからだ。以前、政党の男性党首が「女性の視点を発揮して」と言うのを耳にして疑問に思ったといい、「彼はそれがどんな視点なのか説明できるのだろうか。柔軟さとかしなやかさとかの意味が含まれるなら偏見だ」と考える。

 使用に「反対」という人もいる。50代の公務員は「女性を管理職などに登用する際に周囲の男性を納得させるためにある言葉では。女性というだけで特殊能力があるわけではない」と冷ややかだ。「よく気が付く女性が多いとすれば、後天的に身につけた能力だろう。子どものころ法事の席でボーッとしていると怒られた。男子は言われてなかったのに」と振り返った。

 京都女子大学ジェンダー教育研究所の手嶋昭子所長は「使ったら差別というわけではないが、意味を考えて使う必要がある」と指摘する。製品開発や防災、性暴力など、これまで男性の基準で考えがちだった事柄を女性側から捉え直すことは大切だとする一方、女性は子育てや福祉に詳しいはずなどと、性別役割分業に基づく押し付けになりかねないと考えるからだ。「私も昔は使っていたが、今はちょっと違和感がある。女性という大きなくくりではなく、多様な立場に目配りをすることが大切な時代ではないか」と投げかける。

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