愛する孫が志望校に合格! そう聞くと、「なにかしてあげたい」と考える人も多いでしょう。しかし、安易な贈与はトラブルを招く危険性があります。具体的な事例を交えて、多賀谷会計事務所の税理士でCFPの宮路幸人氏が警告します。
孫の合格祝いに「1,000万円の高級車」を贈ったAさん
Aさん(83歳)は、とある地方に住んでおり、代々続く地主として地元では有名です。奥さんは3年ほど前に亡くなっており、その後は長男夫婦とその子どもBさん(Aさんの孫)と住んでいます。
同居している可愛い孫が東京の名門大学に合格したとあって、Aさんはとても嬉しく思いました。Aさんの母校でもあったことから、喜びもひとしお。「なにかしてあげたい」と思ったAさんは、その孫に1,000万円もする高級車をプレゼントしました。
さすがに戸惑った長男と孫のBさんでしたが、最終的にはありがたく受け取ることに。その1年後、Aさんは持病のため逝去しました。
遺言書はなかったため、長男のほか次男、三男、長女の4人の子どもが遺産分割協議を行い、その後相続税申告を行いました。
しばらく経って、長男の携帯に税務署から連絡が入りました。「税務調査に伺いたいのですが」。そして税務調査の結果、Aさんから孫Bさんに対する高級車の贈与が発覚。知らされていなかったきょうだいにもバレた結果、「不公平だ」「いますぐ売ってうちの子どもにも分けてくれ」などと、泥沼の相続トラブルに発展することとなったのです……。
“贈与のえこひいき”は後々「相続トラブル」に
子や孫が1人だけという場合には、贈与をしたあと問題が生じることはあまりありませんが、2人以上いる場合は注意が必要です。
「長男である」「同居している」「よく顔を見せてくれる」などといった理由から特定の子や孫をついついえこひいきしてしまう……という話はよく聞きますが、“贈与のえこひいき”は後々問題を大きくする可能性があります。
Aさんは、内孫で毎日顔を合わせることもあり、Bさんを非常にかわいがっていました。小さいときからよく懐いてくれ、勉強もよくできた子であったため、今回の高級車以外にも東京での下宿費用などや生活費の支援などを行い、高校進学時にも教育資金の一括贈与1,500万円を行っていました。贈与額は、すべて含めると約3,000万円にのぼります。
Aさんにしてみれば、「Bは長男の子なのだから、いずれ実家を継いでもらうことになる」と、ごく自然な感覚で贈与を行っていたようでした。
長男は、自分の息子だけがAさんから贈与を受けていたとは他のきょうだいの手前言いづらく、他の相続人には黙って遺産分割と相続税申告を行ったそうです。
その1年後、税務調査が行われ、孫Bさんに対する贈与が発覚。他の相続人は前々から、AさんがBだけを特に可愛がっていることを知ってはいたものの、これほどまで多くの贈与を受けていたとは知りません。
「いくら同居している内孫が可愛いからといって、そんなに贈与を受けていたならきちんと私たちにも伝えるべき」「あんまりだ」という話になりました。
「贈与税+加算税・延滞税」…いったい誰が払う?
もっとも相続トラブルが発生しやすいのが、今回の事例のような「贈与の差」です。特定の子や孫にだけ多くの贈与が行われていたような場合、他の相続人は当然嫉妬や不公平感を感じます。
Aさんの4人の子どもたちは大人になってからも仲がよく、Aさんには「あいつらのことだし、特に遺言書を書かなくてもうまくやってくれるだろう」と思っていました。さらに、Aさんの家は代々続く旧家。Aさんは昔ながらの感覚で「相続といったら長男がすべて相続するのが当たり前」という考えをもっていました。
しかし時代は変わり、子であれば相続の際の法定相続分は平等となっています。
また、相続は親のどちらかが生きているあいだは、トラブルに親が割って入りなんとかまとまることもあるものの、両親とも亡くなったような場合、兄弟がそれぞれ言いたいことを主張し、関係が険悪になるケースが多いといわれています。
また、兄弟間では相続の話し合いがまとまりそうであっても、その配偶者が口出しをしてきてこじれるといったケースもよく耳にします。相続がある時期は、相続人である子もお金が必要な時期と重なることも多く、兄弟間で遺産分割でトラブルになりがちです。
今回、税務調査により贈与税の申告漏れが指摘された孫のBさんは、大学の合格祝いにプレゼントされた車が原因で、贈与税のほか加算税・延滞税を合わせて200万円の納税を命じられました。
さらに、「Bは悪くない。親である長男の取り分を減らすべきだ」「Bだけが贈与を受けていた分を含めて、最初から遺産分割協議のやり直しをすべきだ」という意見も出てきたために、結局泥沼化。
大学生にして200万円の現金を失うはめになり、加えて相続人間の関係は親も孫も険悪に……この悲劇にBさんは「こんなことになるなら車なんてもらわなければよかった」と後悔してもしきれません。
“愛する孫への生前贈与”は慎重に
もともと兄弟同士仲がよかったとしても、特定の子や孫への贈与については、後々トラブルに発展する可能性が高いです。
仲の良かった兄弟同士が自分のせいで険悪になるというのは、親としても本望ではないはずです。
贈与をする際は、今後自分が亡くなって相続が発生した際に、不公平感を感じさせないような配分を想定することが肝要です。また、後々の相続トラブルを避けるためには、遺言書の作成も検討されるとよいでしょう。
宮路 幸人
多賀谷会計事務所
税理士/CFP