赤ランプ(3月10日)

 歌手のさだまさしさんは震災3年目の春、奈良から東北へ向かう。移動のトラックに長さ13メートルの松明[たいまつ]を積んでいた。被災地に掲げて復興を祈り、災禍に遭った人々を笑顔にしたい―。遠路みちのくへ、気持ちはさぞ急いでいただろう▼本県の高速道路に入り、パトカーの指示で停車した。荷台からはみ出た部分に赤い布を結んでいたが、「夜間に義務付けられている赤ランプがついていない」と叱られたそうだ。事情を懸命に説明すると、警察官は私物のランプをくれた。励ましの言葉を添えて(さだまさし著「さだの辞書」)▼あす11日で震災と原発事故から13年を迎える。幾重もの優しさが積もり、共鳴し合って、被災地に明かりをともしてきた。企業などが首都圏で取り組んだ支援活動を、県はホームページで伝えている。「残念ながら全てを紹介できない」とのお断りを入れて。数え切れない思いが胸にぐっとこみ上げる▼能登に心を寄せる今年は特別な「3.11」。さださんは「いのちの理由」で歌う。♪私が生まれてきた訳は 何処[どこ]かの誰かに救われて 何処かの誰かを救うため―。福島から北陸へ恩送りを。ほんのりと温かな春色のランプを目印に添えて。<2024.3・10>

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