オリビア・ロドリゴ『GUTS』ワールドツアー初日公演ライヴレポ:21歳による2度目のツアー

2023年9月8日に発売されたオリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)のセカンド・アルバム『GUTS』は、前作に続き収録曲全てが米Billboard Hot 100のTOP40入りを果たし、デビュー・アルバムから2作連続でTOP40入りという史上初の記録を打ち立てた。

そんな最新アルバムを引っさげたGuts World Tourが2024年2月23日から開始となった。音楽ジャーナリストの鈴木美穂さんによるツアー初日のライブ・レポートを掲載。

またこの初日公演のセットリストがプレイリストとして公開されている。

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人生で2度目となるツアー

オリヴィア・ロドリゴの人生で2度目となるツアーは、コーチェラ・フェスティバルの開催地として知られるカリフォルニア州パーム・スプリングスで始まった。現在ロサンゼルスに住む彼女は幼い頃、ここから数時間離れたテメキュラという街で育ったのだ。

会場となるAcrisure Arenaの入口前にはインスタ映えする紫色の蝶のバルーンの撮影スポットが設置されていて、ファンが長い列を作っていた。観客は親同伴の10代の子供達から20歳前半の男女で、前回の『SOUR』ツアーと比べて少し年齢層が上がっているものの、相変わらず女子が大半。私の隣の席の母娘はお揃いのオリビアのTシャツを着ていて、お母さんが「娘の初コンサートなんです」と、嬉しそうだった。

ステージ上の大スクリーンにモノクロ映画のような映像が映し出されてショウが幕を開け、「bad idea right?」のイントロのヘヴィなドラム・サウンドが鳴り響き、約11,000人の観客が総立ちになって甲高い歓声を上げた。5人のガールズ・バンドと2人のバックボーカルの前に、シルバーのブラトップとミニスカートに黒のブーツのロック・スタイルのオリビアが躍り出た。芯が強く鮮やかなボーカルが響き渡り、頭から大合唱が巻き起こった。彼女は髪を振り乱し、走り回ったりジャンプしたりしながら歌い、大興奮の観客をさらに盛り上げる。次のキャッチーな「ballad of a homeschooled girl」も大合唱で、場内の熱気がどんどん上昇していく。

 

観客の大合唱

続いて早くも3曲目で、『GUTS』のファースト・シングル、「vampire」が披露された。イントロのピアノから大歓声が上がり、ステージ中央に立ちつくしたオリビアは、このドラマチックな曲を圧倒的にリアルな表現力で熱唱した。グラミー賞の最優秀楽曲賞、最優秀レコード賞の両方にノミネートされた同曲の彼女の圧巻のパフォーマンスはグラミー賞の授賞式ですでに目にしていたが、ツアーでは大観衆の合唱が重なることで、より一層感動的になっていた。オリビア個人の体験の曲が、すっかりオーディエンスの皆の曲になっている。それを強く感じる光景は、同じくイントロで大歓声が沸いた『SOUR』の「traitor」と「drivers license」でも見られた。

特にグランドピアノを弾きながら歌う「drivers license」は、前ツアーでは失恋の傷の生々しさを感じる完全に曲に入り込んだパフォーマンスが見事だったけれど、この夜の彼女はリアリティのあるパフォーマンスを披露しながらも、ラストは観客に全て歌わせて、大合唱が響き渡る会場を見渡し、最高に嬉しそうな笑顔を見せた。

「皆が気づいていたか分からないけど、私、21歳になったんだ! うん、すごく嬉しい。それで、コンビニに行って、タバコとビールを1ケース買ったよ! 言っておくけど、消費してないからね。買える歳だから、やりたかっだけ」

「teenage dream」を披露する前に、オリビアはそう言って笑った。それから「大人になるって、今では、そんなに怖いことじゃないと思うし、人生はより良くなってるよ」と締めくくって、美しく滑らかな歌声を響かせた。

「成長すれば人生はより良くなるって誰もが言うけれど、もし私が良くならなかったら?」という不安を歌う曲は、彼女のMCとバックのスクリーンに映し出される子供の頃のオリビアの愛くるしい動画の数々と相まって、希望を感じられる曲に昇華されていた。この曲に見られるように、オリビアは不安や自信のなさや混乱を抱える自分、ダメな自分をそのまま曲にして吐き出している。思春期のティーンには、特に強く共感できる曲ばかりだろう。

 

ミュージカルのような演出と三日月

黒いラメのブラトップとショートパンツと網タイツに衣装を替え、8人のダンサーとのシアトリカルなダンスを織り込んだ「pretty isn’t pretty」と、ベッドの上に仰向けに横たわったまま切々と歌う「making the bed」は、まるでミュージカルの一場面を見ているかのようだった。ドラマ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』のバックグラウンドは、確実に彼女の曲とステージに息づいていて、演劇的な面がオリビアのショウをユニークにしている。

その後、会場中央の天井から沢山の星と一緒に吊るされていたラベンダー色の三日月がステージに降り、オリビアがその上に腰をかけて宙に浮かんだ。三日月に乗った彼女は場内の後部までゆっくりと移動しながら「logical」を披露し、予想外の演出に熱狂する観客の歓声が、凛と透き通ったボーカルに覆い被さった。続けて彼女は「enough for you」を歌いながら三日月に乗ってステージに戻った。ロマンチックな演出で、ショウのハイライトとなる瞬間だった。

そして終盤、よりロックでハードな曲を並べた「brutal」以降の盛り上がりが凄かった。赤いラメのボディースーツに着替え、ギターを手にしてヒートアップしていくオリビアのパフォーマンスに、場内の一体感がどんどん強まっていく。バンドの演奏が凄くタイトなこともあって、ポップ・スターというより、ガールズ・ロック・バンドのステージを見ているかのようだ。『GUTS』のレコード盤限定ボーナストラックの「obsessed」でも合唱が起こり、どんなに熱心なファンが集まっているかを再認識させられた。

最高に盛り上がった「all-american b**ch」のクライマックスで、オリビアは「次のパートは、あなたのことを怒らせた人を頭に思い浮かべて、腹の底から叫んで!」と、オーディエンスに声の限り叫ばせた。グラミー賞の最優秀ポップ・パフォーマンス賞を受賞した「drivers license」を始め、バラードのシングルが高評価されてきたオリビアだが、彼女のファンは、こういうエッジの効いたロックな曲が大好きなのだと思う。それは、現在のオリビアの最大の魅力でもある。そして今の彼女だからこそ出せるエネルギーが、この夜のステージを最高に楽しいものにしていた。

アンコールでのラストの衣装はシルバーのショートパンツに白いタンクトップで、前回のツアーでカバーしたノー・ダウトの名曲の歌詞、「I’m Just A Girl」が胸にプリントされていた。

最後に「good 4 u」と「get him back!」で再び大合唱大会になり、楽しさ満載のステージは幕を閉じた。その後、オリビアはステージを降りて、最前列のファンの一人一人に大喜びで挨拶をして回っていた。2作目にして大傑作となった『GUTS』と同じく、『GUTS』ツアーは、最高に素晴らしいショウだった。

Written By 鈴木 美穂

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