震災の教訓、LRTにも「生かすのが使命」 宇都宮ライトレールの佐藤さん(仙台出身) 東日本大震災きょう13年

東日本大震災の教訓をLRTに生かす佐藤さん。「当事者としての使命」と力を込める=7日午前、宇都宮市下平出町の車両基地

 東日本大震災は11日、発生から13年を迎えた。あの日の教訓は、宇都宮市と芳賀町を結ぶ次世代型路面電車(LRT)にも生かされている。運行する宇都宮ライトレールの技術職、佐藤大(さとうだい)さん(33)は高専卒業を目前に、出身地の宮城県で被災した。翌4月に入社した会社では、東北新幹線に関わる仕事も担当。復旧作業に当たった先輩から教訓を学んだ。大災害はあらゆる物を破壊する、復旧資材はすぐには届かない、だからこそ日頃から備えておくこと-。「当事者としての使命というのか、与えられた経験を生かすことが自分の役目」。今、LRTの安全運行に役立てている。

 「横転するんじゃないかと思うぐらい、大きく揺れた。次第に道路がひび割れていった」。あの日、佐藤さんは高速バスで実家のある仙台市から岩手県へ向かっていた。卒業と就職を控え、祖父母の家にあいさつに行くところだった。

 車窓から見える街並みは停電で真っ暗になり、何時間もかけて着いた盛岡駅は闇に包まれていた。幸いにも家族は無事だったが、同級生の中には親族を失う人もいた。卒業式は中止になった。東北新幹線の全線再開は1カ月後。やっとの思いで東京行きの高速バスチケットを取り、4月1日の入社式に臨んだ。

 入社したのは新幹線など鉄道の電気設備工事を手がける会社で、先輩たちが東北新幹線の復旧作業に当たっていた。例えば数万本のケーブルが生きているか否か1本ずつ確認するといった、途方もない作業だ。

 「鉄道は市民の足。ここが復旧すれば生活が取り戻せる」。一日も早い復旧に向け徹夜の作業が続いたと先輩から聞き、鉄道マンの「気質」を感じた。自らも4年を経て東北新幹線の業務を担うことになり、宇都宮に赴任。経験を積んだ。

 そして2022年秋、宇都宮ライトレールに転職した。広島市や函館市など全国の路面電車や大手鉄道を経験した社員が結集し、各地のノウハウを生かしている。佐藤さんも開業メンバーの一人として、信号など電気設備の点検を担う。

 「大災害が起こると、設備も何も丸ごと駄目になる。でも、徹夜で復旧に当たるにしても予備の資材がないと修復できないし、すぐには届かない。だからこそ、日頃の備えが大事。これも学んだことです」

 東日本大震災以降も災害は相次いでいる。高い緊張感を持ち日々の業務に当たりながら、資材の確保なども含め、いかに備えを進めるか。学んだ教訓を共有し、暮らしを守ること。それが自身の使命だとの思いを強めている。

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